「お前、見たのか」
「……ぅ、……ぁ…ッ!」

ルビーの様に透き通った目が天馬を見据える。誰か助けを呼ぼうとしたが恐怖で声が出ない。吸血鬼はいきなり強い力で天馬の肩を掴みそのまま地面に倒した。少し湿った土が体に当たって気持ち悪い。天馬の首筋にそっと手を当て首の一番太い血管である頸動脈を探る。ドクン、と天馬の心臓の音が伝わって当てていた手も小さく動いた。吸血鬼は天馬の首に顔を埋めて行く。もう駄目だ、と目を閉じた。

(―――――…あ、あれ?)

何時まで経っても首に痛みが来ない。恐る恐る目を開けると首の皮膚に当たるか当たらないかのギリギリで尖った牙は止まっていた。そしていきなりやっぱ無理だぁあ!と叫びながら天馬を無視して一人で頭を抱えてうう、と唸り始めた。予想もしなかった行動に天馬は恐怖感を忘れ、寧ろこの吸血鬼に興味を持っていた。足もいつの間にか動く様になっていたので取り敢えず起き上がり、ズボンに付いた土を軽く叩いてから蹲っている吸血鬼の横にしゃがみ込んだ。

「…あの」
「…………」
「もしもーし?」
「…………」
「おぉーい」
「…………ンだよ!」

手をヒラヒラと吸血鬼の目の前で振ってみせる。すると吸血鬼の少し遅い返事が返って来て、ムスッとした表情を浮かべていた。天馬は今なら倒せそうな気がするなぁ、と思った。

「あのさ…」
「………」
「…血、吸わない…の?」
「吸わないんじゃなくて吸えねぇんだよ」
「は?」

ポカンと間抜けに口を開いていると吸血鬼がその顔むかつく、とデコピンしてきた。結構それが強烈で額がヒリヒリと赤くなった。いきなり何をするんだと言わんばかりに吸血鬼を睨む。だが天馬の睨みに当然吸血鬼が怯む訳もなかった。

「俺は人間の血が嫌いだ」
「え!?吸血鬼って人間の血吸わないと生きていけないんじゃないの?」
「それは人間の勝手な想像だ。別に人間の血吸わなくても生きられる」
「さっき女の子襲ってたじゃん」
「…気絶した」
「?」
「俺が噛み付く前に気絶しちまったんだよ!」
「え、えぇぇ!?じゃあ…この子は」
「ただ寝てるだけだ」

目線の先には倒れた少女。目を懲らして良く見てみると上下に体が動いていて呼吸をしている。どうやら彼の言う通り死んでいない様だ。天馬は少女が生きていた事に安心し、良かったぁ…と少し笑いしながら息を一気に吐き出した。

「でも、何で襲いたくもないのに襲ったの?血を飲まないでも生きて行けるのに」
「………」
「…あ、き…聞いちゃいけない事だったなら言わなくて…」
「兄さんが病気なんだ」
「……え」

だが、この吸血鬼が言った発言により天馬の表情が変わった。


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