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(C)Yuuki nanase 2010 - 2013



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山田少年の新生活
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どうも山田です。今日、英聖学院大学附属高校普通科に入学します。中等部からの持ち上がり組から見たら外部組というやつ。

我が家はいわゆる中流家庭というやつで、英学の学費なんて高額すぎてとんでもないけど払えたもんじゃない。

けれどそんな俺がなぜこんなところにいるのかというと、中学時代にサッカー部でそこそこの成績を残していた俺は英学高等部サッカー部のコーチからスカウトされて、遠く離れた実家からここ英学高等部に越境入学したから。

ちなみに今日から寮生活。っても不満はない。完全個室で、どっかの高級マンションかと思うほどの立派な建物で、入寮したときは本気でびびった。まったく金持ちの感覚はわかんねぇ。

それで俺の話に戻るけど、俺はラッキーだったと思う。英学は施設がすっごい整ってるし、チームにすっげぇ強い奴もいるし、サッカーするにはとても恵まれた環境だと思う。チームの中でライバルが多いっていうのは良いことだしな。

実は春休みからちょっと練習に参加させてもらってたんだ。入寮後暇だったし、部活を見学に行ったらキャプテンに誘われてさ。

そん時に新一年のやつらが他にも何人かいて、その中に櫻井隼輔ってのがいたんだけど、こいつがまたすげえのなんのって。

ポジションは中盤らしいんだけど、あいつのセンタリングはもう最高。欲しいとこにドンピシャで上げてくるから、トップの俺はやりやすいったらない。

おまけに顔は良いし、家が病院だか会社だか経営してる坊ちゃんだっつーからどんだけ性格悪いやつかと思ったけど、めちゃくちゃ良いやつでさ、打てば響くし、すごい楽しいやつ。

話す内容もその辺の学生と同じだし。金持ちっつーとフィジーに行ってどうしたとかブルガリをどうしたとか上流階級的話題ばっかりかと思ったけど実際は超普通の兄ちゃんでさ、コンビニとかも普通に行くし、サッカーっていう共通点があるから会話は弾むし、何より海外の好きなチームが同じで結構気が合うんだ。

その隼輔をさっき校門のところで見つけたんだけど、あいつ実はすごい人気者なんだな。春休み中は部活のやつらしかいなかったから気付かなかった。

隼輔が車から降りた途端湧き上がる女子の歓声にはびびった。ま、モテると思ってたよ。アイツ格好良いもん。それは俺も認める。

それで隼輔に続いて降りた小柄な女の子を見てまたびびった。あんなに可愛い女の子がいたのかと。俺の地元の中学の女子なんて足元にも及ばねえ。そんなこと同窓会とかで言ったら女子にしばかれるだろうけど、そのくらい可愛いってことだ。芸能人か何かかと思った。目、デカッ!何もかもが完璧すぎてCGじゃねぇかと思った。いや、さすがにそれは冗談だけど。

その女の子に続いて降りてきた男。隼輔と同じ顔してた。双子の弟がいるっていうのは聞いてたからすぐわかった。あの顔が二つって、そりゃ騒ぐよ。中学の時に女子が「イケメンは癒し」って言ってたけど、その癒し効果が二倍ってことだろ。ヒーリング効果抜群だ。

そんな異様に輝いてるやつらが眩しすぎて俺はなんとなく木の影に隠れた。俺、一体何やってんだろう。隼輔単品だったら声かけられるんだけど、なんかあまりにも近寄りがたいオーラが出てるからやめた。

あ、そうだ。後で誰かにあの女の子が何者か聞こう。あれだけ可愛かったら内部のやつらは知ってるだろ。


* * *


「ああ、それな。宮川梨子ちゃん」

「やっぱり有名なのか?」

「当たり前だろ。すっげー可愛いもん」

「だよなぁ……」

「英学の姫だよ。プリンセス」

「別に英語にしなくてもいいよ」


ちょうど同じクラスにサッカー部で知り合った内部組の高柳がいたからさっきの女の子のことを聞いてみた。そしたらやっぱり知ってた。ちなみにこいつもお坊ちゃんのくせして普通の兄ちゃん。


「なんで梨子ちゃんと隼輔たちが一緒に登校してきたんだ?」

「あいつらお互いの家がお向かいにあってさ、幼なじみなんだと」

「へぇ」

「羨ましいよな。俺なんて梨子ちゃんと話したこともないのに」

「そんな近寄りがたい感じ?」


同じ金持ちの家の人間同士なのにそんなに近寄りがたいのか?実は梨子ちゃんてすっごい性格が悪いとか。


「いや、梨子ちゃん自体は全然。可愛いしふわふわしてて性格も良いし。でも周りがなぁ……」


言葉を濁した高柳に俺は眉根を寄せた。周りがどうしたんだ。


「さしずめ、イケメンガード的な?」

「は?」


それは一体どんな技だ。何か新しいゲームの技なのか?


「隼輔の家が五人兄弟なのは知ってるか?」

「なんとなく。双子の弟と、ウチの三年に兄貴一人と、大学部に二人だっけ?」

「そうそう。櫻井家はそういう遺伝子の家系なのか、兄弟全員お顔の整った人間の集まりなわけ」

「それは隼輔と双子の弟を見ればわかるよ」


あいつの親父とお袋の顔を見てみたいと思う。


「梨子ちゃんにも兄貴が一人いるんだけどな」

「ほうほう」

「これがまた、すげーの」

「すげーって?」

「男の俺が一瞬惚れそうになったぐらい。姫の兄は王子だったよ」

「つまりはイケメンてやつだ」

「イエス」


なんか梨子ちゃんの周りすごくね?いや、梨子ちゃん自身もすごいんだけど。可愛いし。可愛いし。可愛いし。あ、俺いま三回言った。


「そういうキラキラした人たちが周りをガードしてるから、そう簡単に俺らは近づけないわけ」

「そうか。よくわかった」

「しかもさ、中等部は普通科しかなかったから廊下ですれ違うことも多かったんだけど、高等部からは梨子ちゃん音楽科に行っちゃったから、そう簡単に姫を拝むことはできなくなったんだ。くそ、俺の癒しが……」

「へぇ、音楽科」

「ヴァイオリンやってて、上手いらしいよ」


可愛くて、性格良くて、ヴァイオリン弾けて、イケメンの兄貴と、イケメンの幼なじみ。家柄からすでに負けてる俺はどうしようもねえな。いや、卑屈じゃなくて。単純にすげえと思う。


「お、隼輔」


実は隼輔は俺らと同じクラスで、高柳が教室に入ってきた隼輔を発見して声をかけた。


「おーっす」

「隼輔の席、俺の隣だよ」

「山ちゃんは?」

「窓際の一番後ろ」

「さすが“や行”。あいうえお順だと強いな」


隼輔は自分の席に座った。そういう俺は高柳の前の席に座っていた。ちゃんとこの席の主に許可を取ってからな。


「今、梨子ちゃんの話してたんだぜ」

「は?梨子?なんで」

「山ちゃんが校門のところで隼輔と梨子ちゃんが一緒にいるところ見たらしくて。『あの美少女は誰だ?!』って教室で俺を発見するなりいきなり」

「ふーん」


あれ。興味なさそうに装ってるけど、隼輔のやつ何かおかしくないか?


「まーたイライラすんなって。梨子ちゃんは可愛いんだから、外部のやつらはまずそんな風に思うの」

「は?イライラなんてしてねえよ」

「隼輔はこう言ってっけど、梨子ちゃんに好意向けるやつはだいたい隼輔に敵認定されるから。山ちゃん気を付けて」

「え、山ちゃん梨子が好きなのか?!」

「えぇ?!違うって!」


がばっと勢い良く隼輔に見られて、俺は全力で否定した。好きって、それは安直すぎだろ。だって、さっき初めて梨子ちゃんを見て、名前を知って、人物像を知ってあまりの自分との違いにカルチャーショック受けたんだぜ。ないない。それはない。


「大丈夫。誰もお前から梨子ちゃん取ったりなんかしねえから」

「ちょ、お前変なこと言うなよ!梨子はただの」

「ただの幼なじみだろ。知ってるよ」


そういう高柳はどことなく楽しそうで。……こいつ、何か知ってる。かくいう俺も気付いてしまった。さっき校門で見た光景。隼輔が梨子ちゃんといるときの様子とか、今までの俺らと隼輔のやりとりの中での反応とか。そういうのを総合して考えると、隼輔は確実に梨子ちゃんが好きだと思う。

なるほどな。まあ俺は最初からそういう気はないけど。アイドル見て可愛いと思う感覚に近いし。

正直、隼輔と梨子ちゃんは似合ってると思うから応援はしてやろうと思った。けれど、そういうことをストレートに隼輔に言ったら本人に確実に怒られるだろうから、これは俺の心の中にしまっておこうと決めた。




山田少年の新生活


 

(2010/04/28-2010/05/02)




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