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肖像ロマンティシズム
1 / 2 「古典すっごい眠かったー」 「ちひろ一回ガクンってなったよね」 「やだ、比奈見てたの?」 「ちひろの後ろの席なんだから見えるに決まってるでしょ」 「そりゃそうだ」 お昼休み、梨子たちは教室の一角に集まって賑やかなランチタイムをしていた。 ちひろと比奈乃が前後の席のため、二人の机を向かい合わせるように移動させ、それを囲むように梨子とあさみは近くの席から借りた椅子に座っている。 「午後一の授業なんだっけ?」 「音楽史だよ」 ちひろの問いにあさみが答えた。 「また寝ちゃうかも」 「森先生なら文句言わないでしょ」 「そうなんだけどさあ」 友人たちの会話に楽しそうに耳を傾けながらミニハンバーグを頬張っていた梨子は、ポケットの中で携帯電話が震えたのに気付き、手に持っていたフォークを置いてポケットから携帯電話を取り出した。 二つ折りの携帯電話を開くと、ディスプレイには新着メールの表示。メールを開いて送り主と内容を確認した梨子は思わず笑いをこぼした。 ------------------- From.櫻井優希 Sub.激写! ------------------- 講義疲れた〜! 梨子に会いたい! ギュッてしたい!! ------------------- 「梨子どした?誰から?」 「優ちゃんからだったよ。お疲れなんだって。あ、写メ付きだ」 画面を下にスクロールすると現れた一枚の画像。その被写体となっていたのは、 「あれ。お兄ちゃんだ」 梨子の兄である修司だった。修司と優希は学部は違うが、たまにこうして一緒に学食でランチをすることがある。 画面に写っている修司は窓の外を眺めながら、ヘタを手に持ったままプチトマトを口にくわえているという姿だった。よそ見をしているうちに優希にパパラッチされてしまったのだろう。 「えー、その写メ見たいな。見せてもらってもいい?」 「いいよー」 あさみの申し入れを快く承諾した梨子は携帯電話の画面をあさみたちに向けた。 あさみ、ちひろ、比奈乃の三人は顔を寄せ合って画面を覗きこんだ。 「あ、本当に修司先輩だ」 「プチトマトくわえててなんか可愛いね」 「横向きでもカッコイイもんね。たとえトマトくわえてても」 比奈乃、あさみ、ちひろはそれぞれ感想をもらした。 「修司先輩のファンなら大金積んでも欲しがるようなレア画像だわ」 「え、そんなに?!」 「修司先輩の人気はハンパないから」 「梨子ちゃんは身近すぎてわからないかもしれないけど、多分梨子ちゃんが思ってる以上に修司先輩はカッコイイんだよ?もう女子憧れの王子様みたいな」 「そんな王子様が梨子のお兄ちゃんで?こっちが見てて照れるほどに愛情注がれてるのを見て、ファンは嫉妬に狂ってんじゃない?」 「え、えっ?!」 兄が女の子から人気があることも、もちろん平均以上に整った顔をしていることも一応知ってはいた。知ってはいたが、まさかそこまで兄が凄い存在だなんて思ってもみなかった。 「っていうか、オールイケメンの櫻井兄弟も見事に五人揃って梨子に夢中っていうのもファンにとっては嫉妬もんだと思うよ」 「えぇっ?!いや、その、夢中だなんて、違うよ?みんなは幼なじみだし、なんていうか兄妹みたいなもので、えっと……だからね、ちがうの!」 「うん、わかったから。私が悪かった。だから落ち着こう?ね、梨子」 自分の発言により梨子を慌てさせてしまったことをちひろは反省しながら梨子の頭を軽くポンポンとたたいた。 「そういうところが梨子ちゃんの可愛いところだよね」 「ふぇ?」 「うん。なんていうか、庇護欲をそそる」 「ヒゴヨク?」 「いつまでもそのままの可愛い梨子でいてね!」 「わわっ、ちーちゃん?!」 いきなりちひろが抱き着いてきたので梨子は慌てふためく。ちひろは梨子をギュッと抱きしめながらこちらを羨ましそうに見ていた男子生徒たちに「いいだろ?羨ましいだろ?」と目で自慢をしていた。 「ちひろ。そろそろ解放してあげないと。梨子困ってるよ」 「はいはい」 比奈乃に窘められたちひろはようやく梨子を解放した。 |
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