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君が知らない、君の素敵なところ。
1 / 3 「よーし、じゃあ俺がリモコン隠すから、三人は部屋の外に出ててね」 「はーい」 櫻井邸のリビング。優希の手には某ゲーム機のリモコン。今からそれをリビング内のどこかへ隠し、梨子、隼輔、蒼輔の三人に探させるというゲームをするのだ。 梨子は元気良く右手を上げ返事をしながらリビングを出て行き、隼輔と蒼輔もそれに続いた。ドアが閉まったことを確認して優希は4つのリモコンを手にリビング内をうろつき始める。 ちなみに他の兄弟たちはというと、大輝は一人掛け椅子に座って雑誌を読んでおり、修司と涼はソファの上で将棋を打っている。 将棋を打つパチッパチッという音が響く中、優希は1つまた1つとリモコンを隠していき、残るはあと1つとなった。 「どこにしようかな。……っと、やばい。制限時間残り少ないじゃん」 テレビの画面を見ると、制限時間が残りわずかなことを示していた。 「優ちゃん。高い所に隠すと梨子が見付けられないからやめてあげてね」 「涼、そこまで気遣ってくれなくていいから。梨子なら椅子でもあればアグレッシブに高い所も探し回るし」 「椅子から落ちて怪我でもしたら大変でしょ?オケに出られなくなって悲しむ梨子は見たくないんだよね」 どれだけ過保護なんだ。自分も梨子に対して過保護であることをそれなりに自覚している修司もさすがに苦笑いをするしかない。 その一方でリビングをぐるぐる回っていた優希の視線がある一点で止まった。 「修司、ちょっと失礼」 「は?……おい!」 優希は修司が着ているパーカーのフードの中にリモコンをそっと隠した。 「優ちゃん、それだいぶ不自然だよ」 「ここから見ても丸分かりだぞ」 涼と大輝に指摘され、優希は渋々フードからリモコンを取り除いた。そして新たに目に入ったのは、 「ちょ、優希!お前なにしてんだよ?!」 「修司、シーッ」 あろうことか優希は修司のパーカーの裾をめくり、修司が履いているデニムの腰に無理矢理リモコンを挟みこんだのだ。そしてめくったパーカーを元に戻す。 「これならバレない」 「いや、バレないっていうか、わかっててもそこに手は出しにくいよね。特に隼と蒼は」 「見事な心理作戦だろ」 どや顔で大きく頷いた優希。しかし、 「隼と蒼には効いても梨子だったらなんの躊躇いもなくめくってくるぞ」 「いくら自分のお兄ちゃんでも恥ずかしいっていうのは?」 「ないない」 即答した修司に優希は一瞬考えたが、 「まあ、もう時間もないし。ほら終わった」 テレビには制限時間終了の表示が出ていた。 「三人とも入っておいでー」 優希がドアの向こうに声をかけると、梨子を先頭に蒼輔、隼輔がリビングへ戻って来る。 「あー、なんかめんどくさくなってきた。俺、やっぱりやめっかな」 最後にリビングへ入ってきた隼輔は明らかに待っている時間だけで飽きているようだった。それを見た梨子は 「えー、隼ちゃん一緒に探そうよ!」 「いや、面倒くさくなってきた」 「隼ちゃん、一緒がいいよー」 棄権を主張する隼輔の腕を引っ張って懇願する梨子。だがなかなか隼輔は首を立てに振らなかった。それを見かねた蒼輔が 「梨子、隼輔は放っておこう?本人がああ言ってるわけだし、二人で頑張って探そうよ。ね?」 「んー……、わかった。蒼ちゃんと頑張る!」 多少納得がいかないながらも頷いた梨子の頭を蒼輔が撫でる。 「さあ、二人とも頑張って探してね!」 こうしてリモコン探しは始まった。 * * * 「あった!これであと1つだね!」 梨子が3つ目のリモコンをマガジンラックの中から見つけだした。これで優希が隠したリモコンのうち残るは1つ。それも、修司の腰に挟まったままのアレだ。 |
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