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(C)Yuuki nanase 2010 - 2013



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暗闇に耳を塞いだ
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「恵介は?一緒じゃないんだ?」
「外で一服だそうです」
「そっかー」

潤の隣に座った梨子は恵介の所在をありのまま伝えた。ソファには潤と遥が並んで座っていたので、その間に入る形となった。

「二葉先輩って煙草吸われるんですね」
「ああ、天宮くんと梨子ちゃんたちは見たことなかったね。しばらく禁煙してたけど最近また復活したみたい」
「二葉くんてば前より本数増えたじゃない?だからこのままじゃ身体に良くないと思って箱の中身全部シガレットチョコに変えたら怒られたんだけど」
「あ、うん。それは怒ると思うよ、ササ」

解せないという表情を浮かべるササに潤はソフトに突っ込んだ。

「しかも二葉くんてば迷いもせず真っ先に『ササ!このやろう!』ってこっち来たの。心外だわぁ」
「心外も何も真犯人でしょ。っていうか、他にそんなことする人いないってば」
「嘘、コンマスだってするでしょ?!」
「しないよ。俺だったら煙草を全部湿っぽくするぐらいしかしない」
「コンマス、それも結構重罪だよ!」

その場にいた大学メンバーたちから笑いが起こった。

恵介の煙草の話から何故か如何に恵介に悪戯を仕掛けるかという話に脱線してしまっていることに梨子と遥はお互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

「まぁ、恵介も今いろいろ抱えてるからね。主にオケのこととか、他にも………ね?」

ね?の部分で潤と目が合った梨子は意味ありげな目線を送られて首を傾げた。

「俺達もう4年だしさ、将来のこととかも考えなきゃだし。みんな卒業したらどうすんの?日本残留するかんじ?」
「私はこのまま院に行くよー。プロオケが募集かけてたらそっち行きたかったけど」
「俺は、今年教員試験受けるつもり。受かったら音楽教師かな」

音楽科は他の学科に比べて中流家庭出身の学生が比較的多い。音楽は家柄ではなく才能と努力によるところが大きいので、より幅広く学生を募集しているためだ。

そのため何かしらの家業を継ぐ学生以外は、今は就職活動真っ只中でもあるのだ。

「コンマスは海外行くんでしょ?」
「うん。そのつもり」
「ああ、やっぱり。塚本先輩は留学されるんですね」

オケを率いるほどの実力もありコンクールなどで入賞経験もある潤のことだ。やはり海外へ行くだろうと遥も考えていた。

「じゃあ、恵介先輩も……?」

恵介もズバ抜けた才能の持ち主だ。彼も潤と同様に留学するのだと思ったが、

「うーん、言っていいのかな…………。あのね、恵介は、」
「そろそろ練習再開すんぞー」

言いかけたところで恵介の声が被さった。潤は苦笑いを浮かべながら、

「まったく、タイミングがいいんだか悪いんだか。ごめんね、また今度ね。恵介のやつ遅れたら怒るからさ」

梨子の頭を撫でながら潤は先にホールへと戻って行った。

(さっきの潤先輩、なんだか複雑そうなカオしてた……)

潤が言いかけたこと。表情から察するにあまり良い情報ではなさそうだ。

「梨子ちゃん?どうかした?」
「え、あ、ごめんね。大丈夫!」

思わず途中で立ち止まり考えてしまっていた梨子を心配そうに遥が見ていた。

「そう?ならいいんだけど。……あ、今日の梨子ちゃんのソロすごく感動しちゃったよ」
「へへ、ありがと」
「音もすごい綺麗だし、梨子ちゃんはやっぱり可愛いし。他の人に見せたくないぐらい」
「は、遥くん!」
「冗談だよ」

そう言いながら遥は梨子の手を取って歩きだした。

(冗談にできるんなら、そうしてしまいたいけどね)

心の中で呟かれた本音は梨子には届くことはない。

「次の演奏も楽しみにしてるからね」
「うん、頑張る。ありがとう」

ホールへ戻った二人。梨子はソリストのポジションへ立つと、無意識に恵介を見てしまっていた。その視線に気付いた恵介は訝しげに、

「どうした?」
「な、なんでもないです!」

あまりに挙動不審な梨子を恵介は余計に不思議がった。

(聞いちゃいけない話だったのかもしれないよね)

誰にだって隠された秘密はあるわけで。

(ごめんなさい、潤先輩と恵介先輩)

もう自ら追求しないと決めた。


暗闇に耳を塞いだ

 

(2013/04/01-2013/04/01)




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