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君さえいれば、もう無敵
1 / 2 「はい、いいよー二人とも。次は仲良く手繋いでみようか」 絶え間無く鳴るシャッター音とカメラマンの指示が飛び交う撮影スタジオ。 真っ白い壁紙に囲まれ、その中で指示通りにポーズをとり続ける二人の男女のモデル。 「本当に息ピッタリだね。二人でイメージキャラクターになってから長いもんね」 「えーそうですか?」 「当たり前ですよ。梨子ちゃんと俺が揃った撮影は結構やりましたもん」 カメラマンの言葉に笑顔で答える二人。 二人は洋服のブランドのイメージキャラクターを務めている。男性服と女性服の両方を扱うブランドのため、男女一人ずつをメインキャラクターとして起用しているのだ。 ワンシーズンごとにやってくるポスターやカタログ撮影はもう数えきれないほどこなし、二人揃っての撮影も両手では足りないほど経験してきた。 二人が一緒にお披露目される機会が多いため、世間では仲が良いという印象を持たれており、実際に周りのスタッフたちもとても仲が良さそうな二人を見て微笑んでいる。 そんな二人はカメラに笑顔を向けながら、お互いにしか聞こえないぐらいの小声で会話をしていた。 「息ピッタリとか……ありえない」 「まあまあ、梨子ちゃん落ち着いてよ。周りにはそう見えちゃうんだよ俺らは」 「節穴か。どこをどう見たらそうなるんだ」 「今みたいに手繋いじゃったりしてるとこ」 「私の意思はそこにはないのに」 「じゃあ、プライベートで手繋いで街中歩いてみる?」 「“じゃあ”の意味がわかりません。っていうかこの前、遥人(はると)さん週刊誌にすっぱ抜かれてましたよね」 「うっ……、いや、あれはな、その、間違いなんだよ」 「どこをどう見たら間違いないんですか。ばっちりチューしてましたよね」 「それこそあそこに俺の意思はないんだって」 「本来なら『汚らわしい触らないで』って言いたいんですけど、仕事なんで我慢してるだけなんですよー。勘違いしないで下さいね」 「うわ、辛辣」 まさか二人がこんな会話をしているだなんて夢にも思っていないだろうスタッフたちは終始ニコニコと二人を見守っている。 「はい、お疲れ様でした。次、休憩挟んで衣装替えして再開です」 「お疲れ様でした」 「お疲れっす」 スタッフに声をかけられながら二人は控室へと戻っていった。 * * * 「梨子ちゃん今度雑誌で対談やるんだって?朝霧くんと」 「そうなんですよ。同い年の二人が自由に話すっていう」 控室で梨子は休憩に入る前に衣装替えとヘアメイクに取り掛かっていた。ヘアメイクをしてくれているスタッフにはもう何度もお世話になっており、すでに気心知れた仲だ。 「毎回人気みたいだよそのコーナー。お互いいつもと違って自然体な感じがいいって」 「逆に自然になりすぎないか心配ですよ。っていうか、それ以上に朝霧くんのファンが心配です。『私の朝霧くんに近づかないで』とか言われなきゃいいけど」 朝霧由紀也は人気の若手俳優だ。イケメンが集まる某雑誌のコンテストで優勝し、あっというまにスターの座へとのし上がった実力派だ。 「大丈夫でしょう。それにしてもスゴイね梨子ちゃんは」 「何がですか?」 「遥人くんとお仕事して次は朝霧くんか。若い女の子に一番人気といってもいい二人と共演するなんて」 「そうなんですかねえ」 コンコン 「どーぞー」 「お邪魔しまーす」 「あら遥人くん」 梨子の返事を聞いて控室に入ってきたのは遥人だった。衣装と髪型がさきほどとは変わり、次の撮影の準備は整ったようだ。 まだヘアメイクさんが控室にいるのを見た遥人は申し訳なさそうな顔をした。 「あれ、まだ準備中だった?」 「もう終わったから。私は出てくわよ」 「じゃあ私も」 「いやいや待ってよ。俺なんのために来たの。ちょっとくらい話し相手してよ」 露骨に嫌そうな顔をする梨子などお構い無しに遥人はヘアメイクさんがいる方とは反対の梨子の隣の椅子に座った。 「じゃあ私はこれで失礼するね」 「ありがとうございました」 「遥人くんごゆっくり」 「どーもー」 「いえ、すぐに出て行きますから」 「梨子ちゃんヒドすぎじゃね?」 そんな二人を見てクスクス笑いながらヘアメイクさんは控室を出て行った。ドアの閉まる音が聞こえた後すぐ、梨子は手元にあった雑誌を手に取って広げた。 「え、雑誌読んじゃうの?俺の相手してよ」 「何しにきたんですか?」 「冷たい!冷た過ぎるよ梨子ちゃん」 「用件ないんですか?ないんだったら、」 「あるある!あるから!」 強制的に控室を追い出される前に遥人は本題に入ることにした。
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