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さあ、とびっきりの恋をしよう3
1 / 1 「疲れた。会議なげーっての」 「もう少し効率的な進め方あるのに。ほんと、イライラした」 放課後の他に誰もいない教室。会議室から戻ってきた梨子は窓際一番後ろの席、透はその隣の席に座ってぐったりとしていた。 「透、今何時?」 梨子は机に突っ伏したまま透に尋ねた。透はズボンの後ろポケットから携帯を取り出してパカッと開いてディスプレイに表示された時間を確認した。 「げっ、もう18時半?!」 「三時間もかかったの?ありえない……」 三年七組の委員長二人組はあまりにグダグダな会議に疲労を隠せずにいた。 15時半からはじまった会議だが、気付けば日はとっぷりと暮れていた。 「俺、いつ梨子がキレて暴れだすかヒヤヒヤした」 「あの場で暴れたらもっと会議の時間長引くに決まってるじゃない。ったく、どんだけ段取り悪いのよ」 「だから梨子が生徒会長に立候補すりゃよかったのに。ぜってー当選してたって」 梨子は今期の生徒会選挙の会長職に立候補するよう前会長より打診されていた。しかし、梨子はそれをあっさりと断った。 「めんどくさいからイヤ」 「だよなあ」 「帰りたい。でも疲れた」 「どこでもドアがあればいいのに」 「透、持ってきて」 「さすがに俺でもそれは無理だわ」 今回は精神的疲労のほうが肉体的疲労よりも明らかに勝っている。 二人はもうしばらくぐったりしたまま動かなかったが、数分後ようやく透が動いた。 「よーし。帰るぞ梨子。このままだと明日の朝まで学校にいそうだ」 「それはイヤ」 「ほら、頑張れ」 梨子がここまで弱っている姿を見せるのは自分だけであることを透はうれしく思いながら、透は梨子の脇の下に手を差し入れ、梨子を持ち上げて強制的に椅子から立ち上がらせた。 梨子は不機嫌そうな顔をして透を見た。 「ここまで梨子のHP削る会議ってマジありえねーな。ほら、鞄は俺が持つから」 「いい。それぐらい自分で持てる」 梨子は透から自分の鞄を力なくも奪い取った。 「歩けるか?」 「馬鹿にしてる?」 「いや、心配してんの!」 自分の少し後ろに立つ梨子を心配して声をかければそんな憎まれ口が返ってきた。これだけ言えるなら大丈夫だと透は思った。 そして、戸口に向かって先に歩き出した瞬間、 「うおっ!何、どうしたの?!」 「ちょっと、動かないで黙って」 透は思わず鞄をドサッと床に落として、背筋をピシッと伸ばした。いきなり梨子が後ろから透の腰に腕を回して抱きついてきたからだ。 透は緊張のあまり息をすることも忘れてしまった。 梨子は背中に抱きついたまましばらく動かない。 教室に流れる静寂の時間。 「あの、梨子?」 「なに?」 「まだ?」 「もうちょっと黙ってて」 「そう言われても……俺これ以上は、もたないかと」 「なに、イヤなの?」 「まさか!嬉しいことはあってもイヤってことは絶対にないから!」 「ならもう少し黙ってて」 「はい……」 嫌なわけがない。好きな女の子とゼロ距離で接していられるのだから。むしろ喜ばしいことなのだ。 だがしかし、ちょっと体勢が悪いのだ。 背中に伝わる梨子の鼓動。そして、背中にあたる柔らかい胸の感触。 ある意味拷問だ。 健全な男子高校生だからこそ色々と問題があるのだ。 梨子に触れたい。しかし、触れたら確実に怒られる。 梨子が嫌がることは絶対にしたくないからこそ辛いのだ。 どのくらいの時間が過ぎたのかわからない。けれども、透にはとてつもなく長い時間に思えた。 「はい、終わり」 「一体なんだったの?」 開放された透は悶々とした気持ちを出来る限り隠して梨子と向き合った。 「何って、癒し」 「癒し?」 「前から透の腰周りって絶対にジャストフィットだと思ってたのよね」 適度に鍛えている透の腰周りは細くもなく、かといって太いわけでもない。梨子が腕を回したときにしっくりくるサイズだった。 「ずっと俺のことそんな目で見てたの?」 「いけない?」 「全然問題ないです!」 「ならいいじゃない。さ、帰ろ」 釈然としないながらも、透は先に教室を出て行ってしまった梨子を追った。 「梨子!」 「ん?」 「俺も梨子のことぎゅってしてもいい?」 「だめに決まってるでしょ」 「ですよねー」 予想はしていた。わかってはいたが、こうもはっきり断られると辛い。 だけど、きっと他の男にはこんなことしないことはわかっているから。今はそれだけでいいと思った。 (2010/03/30-2010/04/02)
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