Footprint.
(C)Yuuki nanase 2010 - 2013



top
  info    log    main    blog    link    index          
さあ、とびっきりの恋をしよう2
1 / 1
 

「あれ、どこ行ったんかな」


透がトイレから戻ると、さっきまで教室にいたはずの梨子の姿がどこにも見当たらなかった。


「なあ、梨子知らね?」


透は近くにいたクラスメイトに尋ねた。


「ああ。宮川さんなら、ついさっき呼ばれて出てったよ」

「また職員室?」

「いや、生徒だったから違うと思う」

「え、誰?」

「知らないけど、男だったのは間違いない」

「俺知ってる。あいつ二組の石崎だろ、バスケ部の」

「なんか『今から告ります』的な空気だったけど」


なんとなく嫌な予感がした。


「俺、行ってくるわ」


透は慌てて教室を飛び出した。残されたクラスメイトたちは、


「アイツ、二人がどこにいるか知ってるんかな?」

「知らないと思う」

「透のやつ、どこ行く気だ?」


と梨子の行き先を聞かずに出て行った透に呆れていた。


* * *


その頃の梨子と二組の石崎。


「あの、宮川さん。俺とつき」

「ごめんなさい」

「えー?」


最後まで告白を聞くこともなく即答で断った梨子に、石崎は間の抜けたリアクションを返した。


「というわけなので、私はこれで」


用件が済んだので立ち去ろうとしたら、石崎にガシッと腕を掴まれた。

梨子は振り返り、掴まれた腕、それから石崎の顔を見て不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。


「ちょっと待って。やっぱりアイツと付き合ってんの?」

「アイツ?」

「上原透」

「私と透が?まさか。……それより腕、離して」


梨子の言葉とは裏腹に石崎は梨子の腕を掴む力を強めた。


「だったら俺と付き合ってよ」

「“だったら”って、どういうこと?」

「いや、上原と付き合ってないんだったら俺と付き合ってよってこと」


石崎の言葉に梨子は眉間の皺をさらに深くした。


「そんな顔しないでよ。美人がもったいな」

「透と付き合ってないからって、あなたと付き合う理由にはならないでしょう?私にとって透は他と違うの。あなたと同列に扱うのやめてくれない?」

「な?!」

「だいたい何を思って私と付き合おうなんて思ったのか知らないけど、こっちにも選ぶ権利はあるんだから。わかったらさっさと」

「さっさとその腕、離してくんない?」


梨子が言う前に誰かに台詞を横取りされてしまった。よく知っているこの声。梨子が振り返ると、


「透?」

「どーも遅くなりました」

「別に呼んでないけど」

「まあ、そう言わずに」


汗だくになって少し息が乱れてはいるが、いつも通り笑顔の透がいた。

通りすがりの生徒たちから得る梨子の目撃情報を頼りにようやくここまでたどりついた。

透は梨子の腕を掴む石崎の手を強制的にはがした。


「あーあ。こんなに強く握っちゃって。痕残ったらどーすんの」


開放された梨子の手首が赤くなっているのを見て、透は優しく撫でる。

それを拒絶することもなく黙って見ている梨子を見て、石崎はため息をついた。


「やっぱ付き合ってんじゃん」

「俺ら?やっぱりそう見える?」

「付き合ってない!」

「痛っ!」


梨子はいまだに自分の手首を撫でる透の手の甲をペシッとたたいた。予想外の痛さに透は梨子の手首からようやく手を離す。透が叩かれた手の甲をさすりながら、


「ま、そういうことで。これは俺のだから。触んないでもらえる?」


梨子を指差して言った。言われた石崎はポカンとして透を見た。

そして梨子はというと、透を見上げたかと思うと、いつもより少し低い声で透の名を呼んだ。


「透」

「ん、なに?」

「何か勘違いしてない?」

「へ?」

「『私が透の』なんじゃないでしょ」


梨子は一呼吸おいてから、透の胸の辺りに人差し指を突きつけた。


「『あなたが私の』なの。間違えないで」


それだけいうと透と石崎をおいてスタスタとその場を立ち去って行ってしまった。

石崎は引き続きポカンとしていたが、透がいきなり笑い出したので何事かと彼を見た。


「あっはっは!まっさかあんなこと言われるとは思ってなかったぜ。さすが梨子」

「なあ、上原。お前らマジで付き合ってねーの?」

「マジで。でも俺はアイツのらしいから。どういう意味でいったのか俺にもわかんねーけどな。うん、そういうわけで悪かったな邪魔して。っつーか、俺がここに来たのは梨子の心配もあるけど、それ以上にそっちの心配して来たんだ」

「は?」

「この前、梨子のやつさ、引ったくり犯を警察署じゃなくて病院に送ったんだ」

「え……」


石崎は想像してみた。あの時、透が来てくれなかったらと思うとゾッとした。


「投げられなくてよかったな。じゃ、俺もこれで」


ヒラヒラ手を振って透は爽やかに去っていった。

残された石崎はというと、二度と宮川梨子の怒りに触れまいと心に誓った。


そして、透がどこから聞いていたかはわからないが、梨子の

『私にとって透は他と違うの』

という言葉。

あまりに悔しいので、もし聞き逃していたとしても絶対に上原透には教えてやらないと決めた。

 
お互いがとくべつ
(2010/03/30-2010/04/01)



←  /  →








- ナノ -