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さあ、とびっきりの恋をしよう1
1 / 1 「なー梨子」 「何?」 「好き」 「わかった」 「ちょー好き」 「そう」 「梨子のことめっちゃ好きだからな」 「はいはい」 さきほどからずっと繰り返されている、このやりとり。 少年の愛の囁きをあっさりと受け流し続ける少女。なんとも異様な光景である。 ちなみにここは、学校の教室だ。当然ながら他の生徒たちもその場にたくさんいるわけで。 だが、クラスメイトたちはほぼ見慣れたこの光景に対して、たまにチラチラ視線を送る程度でさほど気にしてもいなかった。 少女、宮川梨子は読んでいる本から一切目線を外すこともなく、少年、上原透(とおる)の愛の囁きに適当に相槌をうっていた。 透は梨子がいくらそっけなくても楽しそうにニコニコしながら、彼女の一本一本が細く色素の薄い長い髪をすくっては、サラサラと髪が指の間をすり抜けていく様子を楽しんでいる。 『生徒の呼び出しをいたします。三年七組の宮川梨子さん、至急職員室の佐々木まで。繰り返します……』 「なんだろう?」 突然の呼び出しに、梨子が眉根を寄せた。しばらく考えてから、読んでいた本に栞を挟んで、席を立った。 「俺もいこうか?」 「いや、いらない」 「あっそ」 「いってくる」 またもそっけなく言って教室を出て行く梨子を、透は笑顔で手を振りながら見送った。 「なあ、透」 「ん?」 ずっと二人のやり取りを遠目からチラチラと見ていたクラスメイトたちが透に近付いてきた。 「お前さ、あれでいいわけ?」 「え、どゆこと?」 「宮川さん、すっげー綺麗なんだけどさ、透がどんだけ愛情表現しても冷たいっていうか、そっけないじゃん。不安にならないわけ?もしかしたら嫌われてるんじゃないか、とか」 「えー?ないない!それは絶対ないから!!」 クラスメイトの心配を透は笑いながら否定した。 「梨子は嫌いな奴だったら絶対に黙って触らせてなんてくれないし、会話のリアクションもないから。少なくとも嫌われてはないな」 「へえ、よくわかってんだ。宮川さんのこと」 「付き合い長いから」 透はそう言いながらはにかむように笑った。 幼い頃からずっと一緒にいるからこそわかる。梨子のことは、それこそ長所から短所まで透には全てわかっているのだ。 「でもさあ、そろそろ俺もちゃんとしないととは思ってるわけよ」 「へ?何を?」 「告白の台詞はもう考えてあるんだ。あとはタイミングだな」 「え?ちょ、いや、透。ちょっと待て」 「あ?何?」 「お前ら付き合ってんじゃないの?」 おそらく学校の大半の生徒たちがそう思っていただろう。 スラリとしたモデル体型の美人である梨子と、常に彼女に付き添う金髪長身のイケメンの透。この二人は校内で知らない者はいないほど有名だった。 通称、女王様と従者。 そんな関係性と呼ばれながらも、まことしやかに二人は付き合っていると言われていたが。 「俺と梨子が?付き合ってねえって。まだ。俺の一方的な片想いなの」 透はそう言うが、梨子の方もまんざらではなさそうに周りには見えていた。 あの女王様が透を黙って傍におき自由にさせているのだから。 「っていうか、さっきもそうだけど告白なんて毎日してんだろ!」 「あればちげーよ。一種のコミュニケーション?愛情表現ってやつ?」 確実に何かが間違っていることを透に指摘するものは誰もいなかった。 「でもなあ、告白っつっても梨子はツンデレだからなあ」 「え、宮川さんデレることあんの?」 「うーん……見たことねえな。俺には常にツン」 「それは間違いなくツンデレじゃねえよ」 透が従者から恋人へ昇格する日は、当人には悪いがもうしばらくこないと確信したクラスメイトたちであった。 (2010/03/30-2010/04/01)
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