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微睡むユートピア
1 / 1 「眠いんじゃない?」 ソファに二人並んでテレビを見ていると、隣の梨子の目がすでに半分閉じかけていることに武史(たけし)は気付いた。 「ん。眠いよ。でも寝たくないの」 今にも上下の瞼がくっついてしまいそうな状態にもかかわらず、梨子は何故だか必死に耐えようとしていた。 「もう寝たら?明日休みなんだしいっぱい寝坊したらいいよ」 「違うの。明日が休みだからこそまだ寝たくないのー」 目をこすりながら眠気をこらえる姿はさながらこどものようで、武史は自然と笑みがこぼれた。 「理由を教えちゃくれませんかお嬢さん?」 「わけぇ?」 「そう。そんなに眠そうなのに明日が休みだから寝たくないっていう理屈が俺にはわからないんだけど?」 「んー、わけぇ……」 梨子の喋りがやたらふわふわしているのは、限界が近い証拠だ。それでも梨子はなんとか武史の問いに答えようとした。 「わけっていうのは、寝たらね、今日が終わっちゃうから」 「寝てても起きてても同じく日付変わると思うけど……」 眠すぎて梨子は自分が何を言っているのかわかってないんじゃないかと思いつつ、武史は冷静に返してみた。すると、 「そういう現実的なレベルじゃなくてー、気持ちの問題なのー。布団に入った時に『あー今日もいちにち終わったなあ』って思うでしょー?それが例え午前三時でもねー」 「まあ、確かに」 「だから、武史とまったり過ごす日が終わっちゃうのはいやなのー。明日が休みなら早く起きなくてもいいでしょー?武史といっぱいいっしょにおきててー、そんでいっぱい寝坊するのー」 梨子の理屈を噛み砕くと、そこには武史と過ごす時間を終わらせたくないという可愛らしい想いがあったわけで。 「……なに可愛いこと言っちゃってんの」 「しらないよー」 「っていうか、まったりで終わらす気なんだ」 「もんだいあるー?」 「ないない。全然ない」 武史的にはまったりとは違う夜を過ごしたいという気持ちもあるにはあるのだが、もうこの状態の梨子をどうこうしようという気にもならない。 「あー、空気が目にしみる」 「だからもうそれ限界なんだって。ベッドに行こう?ぎゅーってしてあげるから」 「やーだー。ベッド入ったら一日が終わるー」 困ったお嬢さんだと思いつつ、辛そうな梨子の姿を見るのは武史にとって非常に心苦しいもので。 ふと何かを思いついた武史は隣の寝室へ行き、手に毛布を持って出て来た。そして再びソファに座り、 「おいで?」 武史は隣の梨子に向かって両腕を広げた。ぼーっとしている梨子に、 「ベッドに入るのが嫌ならここで寝なよ。ただし風邪ひくから少しだけだよ。後で問答無用でベッドに運ぶからな」 理解した梨子は無言でゆっくりと武史にもたれかかる。そしてその次の瞬間には寝息が聞こえていた。 「うわ、瞬殺」 武史は眠りにつくまでのあまりの速さに苦笑いを浮かべながら梨子を毛布でそっと包んでやった。 「甘いよな、俺も」 なんだかんだで梨子の希望を常に最優先させてしまっている自分に呆れてしまう。 「甘やかしすぎか?」 梨子の頭を優しく撫でながら過去の自分を思い返して、つい自嘲してしまった。 「しっかし、この寝顔と笑顔に逆らえる男がいたら見てみたいもんだ」 喧嘩をした時も梨子の寝顔を見たら不思議と毒気を抜かれてしまうし、梨子に笑顔でお願いをされると最終的には首を縦に振ってしまっているわけで。 惚れた弱みとはそういうもんだから仕方のないことだと自分に言い聞かせた。 微睡むユートピア (title→風雅) (2011/02/12-2011/02/12)
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