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(C)Yuuki nanase 2010 - 2013



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10000hit記念祭 1/2
 




どうしようどうしよう。今週もまたこの日がきてしまった。


「普通になんてしてられないよ……」


思わず口から出てしまった弱気な台詞。さっきからずっとこの場から動かない私の足。私どんだけびびってんだろう。たかが家庭教師が来るぐらいで。……いやいや、たかがなんていっちゃダメでしょう!仮にも私にとってす、すすす、好きな人なんだから。

高校に入ったときから家に来てくれているカテキョの久志(ヒサシ)先生。大学二年生。背が高くて格好良くて優しくて教え方もすごく上手だし、私が恋に落ちるには時間はそんなにかからなかった。

問題が解けたときに「よくできました」って言いながら頭を撫でられる時とかもう至福の時間。なでなでして欲しくて勉強を頑張った結果、私の成績はうなぎのぼり。親は大喜びだし、久志先生もいっぱい褒めてくれたし。

良いことづくめなんだけど、良かったのは最初のほうだけ。先生が好きだって自覚してからはもう大変。どうにも最近久志先生を意識しすぎちゃってカテキョの時は集中できません。もう心臓がドキドキしっぱなしで、久志先生の顔をまともに見れないんです。

というわけで、今日はそのカテキョの日なんですけど学校の最寄り駅のホームから全く足が動きません。ホームのベンチに座ってもう何本も電車を見送ってる。時間はまだたくさんあるからいいんだけど。ここにずっといても何の解決にもならないのに。

先生を変えてもらうことだってできるんだけど、それはだめ。久志先生に会えなくなるのは勿論、先生が他の女の子(男の子でも)に優しい笑顔で頭を撫でるのを考えただけで絶対に嫌だもん。ただの嫉妬なんだけど。

今日はこの前のテストの成績表が返ってきた。また少し成績が上がってたから久志先生はいっぱい褒めてくれるんだろうけど。もう、今の状態でなでなでとかされたら私確実に死ぬ!いや、それは大袈裟だけど。平常心でいられる自信ないよ。うっかり好きバレするかもしれない。

この気持ちは知られたくない!私が久志先生を好きだって知られたら先生もう今までみたく優しくしてくれないかもしれないし、最悪の場合私の先生じゃなくなるかもしれないもん。

テストの成績が良かったばっかりに私の思考はどんどんマイナス方向へ。普通は逆なのにね。はあ……、思わずため息。俯いてもやもやと考えてきたら、目の前にポトリと茶色い物体が落下。ふと顔を上げるとちょうど目の前をエナメルバッグを肩から下げた一人の男子高校生が通過した。きっとあの人が落としたんだ。


「あの!」


私は慌てて茶色い定期入れを拾ってその人を追いかけた。相手はすぐに止まって振り向いた。


「あ?」


彼の顔を見て私は固まった。ちょ、なんてイケメン!久志先生も格好いいけど、それとはまた系統が違うっていうか。久志先生は物腰柔らかい感じだけど、こちらの彼はワイルドな感じ?……とと、そんなこと考えてる場合じゃなくて。私が何も言わないから相手は訝しがってる。


「落し物、です」

「あ、定期?」


私が差し出す定期入れを見て彼はズボンのポケットを確認する。そこにないことがわかると、


「わり。助かった」


ニカッと笑って私の手から定期入れを受け取った。わぁ、笑顔が眩しい。いやいや、私は久志先生一筋なんだから。


「総二どうした?!」

「ちょっと落としもの!」


彼の後ろで何人かの男子高校生が彼のことを待っていた。みんな彼と同じエナメルバッグを肩から下げている。部活仲間か何かかな。


「サンキューな!じゃ、俺急ぐから」


と片手を上げて彼は颯爽と去っていった。あの制服どこのだっけ。彼の背中が階段の向こうに消えていくのを見送って、


「……帰ろうかな」


私も丁度到着した電車に乗り込んだ。






 
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