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10000hit記念祭
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「はぁ……」 新着メールなし。今日何度確認したかわからない携帯を閉じて握り締めた。 「そんなに寂しいなら理沙子から電話なりメールなりしろよ」 「わっ、久志か。びっくりした」 図書館でレポート作成してたら突然背後から声がして驚いて振り返ったら、そこには友人の久志が呆れたように立っていた。久志は私の前の椅子を引いて座る。 「どんだけ連絡してないの?」 「え?」 「彼氏と」 「えっと……二週間ぐらい、かな」 私の彼氏の雄大(ユウダイ)は年下だ。私は大学生で彼は現役高校生。その年の差、ふたつ。 「相手も待ってるんじゃないの?」 「いや、雄大の方はテスト期間中だし」 「いつまで?」 「今日終わるって言ってたと思う」 間に土日を挟んでテストは四日間日程だったはず。雄大は受験生だから、テストの重要性は私にもよくわかる。だからこそ邪魔したくなくて連絡はしないでおこうと決めたんだ。 「じゃあ連絡しても問題ないじゃん」 「でも、疲れて寝てるかと思って」 「俺だったらテスト終わったらパァっと遊びに行ったよ」 「でも万が一寝てたら悪いし……」 そう思うとなんとなく踏み切れない。作成したメールも送信ボタンを押せずにそのまま保存してある。さっきだってアドレス帳から雄大の番号を探してみたけれど、どうしても発信ボタンを押せなかった。 「何遠慮してんの?そんなに気遣わなきゃいけないような関係なわけ?」 「ちが、くて……」 「そりゃ、ある程度の気遣いは必要だけどさ、会いたいなら会いたい、寂しいなら寂しいって言っていいでしょ。付き合ってるんだから。いくら相手が高校生だからっていっても、彼女の気持ちぐらい受け止められるよ」 久志の言うことはもっともだとは思う。だけど、雄大は私が会いたいと言ったら疲れていても寝ていても「すぐ行く」と言ってきっと会いにきてくれると思う。だけど無理して欲しくないというのが本音なわけで。 「……雄大はすっごい、大切にしてくれるの」 「いきなりノロケ?」 「違うよ!」 久志が茶化したので睨みつけてやると、彼はゴメンと軽く謝った。 「会いたいって言えば会いに来てくれるし、寂しいっていえば夜中であっても眠い中電話してきてくれる」 「いい奴じゃん」 「だからだよ。雄大の優しさに甘えすぎちゃいけないんだって気付いたんだよ」 雄大は優しいから、絶対嫌とは言わない。次の日朝早いのに夜中まで電話に付き合ってくれて。台風の中でも会いにきてくれて。嬉しかった。だけど、それと同時に苦しかった。 「それでいいんじゃないの?」 「え?」 「彼女のわがままなんて可愛いもんでしょ。俺、女の子のわがまますきだよ。なんとかしてやりたいって思うもん」 「それ、久志みたいに恋愛熟練者だけなんじゃないの?」 久志の女性遍歴は正直すごい。私が知ってる元彼女はだいたい年上で、気が付いたら彼女が代わっている。今は自由の身らしいけど。 「恋愛経験値は関係ないよ。相手が好きか否か、それだけ。理沙子だって彼氏が会いたいっていったら会いに行くだろ?寂しいって言ったら電話するだろ?」 「雄大は絶対に言わないもん」 雄大は私を困らせるようなことは絶対に言わないもの。一度わがままを言わせようとしたらあっさりとかわされてしまった。 「あっちも気遣ってんだって。彼女が年上だと彼氏は色々考えるんだよ」 「たとえば?」 「彼女と対等であろうとして背伸びしたりすんの。包容力の高い男を装ってみたりな。だからわがままも言わないんじゃないの?」 雄大もそんなことを考えていたのかな。自分が年下だってこと気にしたりしてるのかな。 雄大にはありのままでいてほしいのに。言いたいことがあったら全部言って欲しいのに。 「……わがままぐらい言ってよ」 「じゃ、それ今すぐ伝えに行けよ」 「え?」 「いいから早く行け!俺はこれからカテキョのバイトなの。だから恋愛相談室はこれで閉店」 久志に追い立てられて私は机の荷物を片付けて慌てて図書館を出た。っていうか、久志がバイトなら勝手に出て行けばいいのであって、私が出てくる必要なかったんだよね。意味わからん。 |
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