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(C)Yuuki nanase 2010 - 2013



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10000hit記念祭 1/2
 




俺は、明るくて、いつも元気で、男とも普通に接することができるような活発な子が好きだ。

いや、好きだった。

最近俺が気になっているのは、物静かで、恥ずかしがり屋で、男と接するのが苦手なタイプの女。だいぶ当初の好みから外れてる。

そいつは同じクラスの椎名理沙子。小・中学校を女子校で過ごしたせいか、男への免疫力が極端にない。

なんでそんなやつを好きになったのかと問われたら、知らね。そんなの俺が知りたいぐらいだ。気付いたら気になって仕方なかった。よくある話だ。

椎名は雰囲気お嬢様風で可愛い感じだし、なんとなく守ってやらなきゃと思わせるオーラを放出してるから、まぁモテてるのは事実。

だけども相手があの椎名なだけあって、告った男はみんな玉砕。場合によっちゃ、告られて困り果てた結果泣き出した椎名を見て罪悪感に苛まれる野郎まで出現。どこまでアイツはシャイガールなんだよ。

そんな椎名と俺は出席番号が同じで、何ヶ月かに一度は一緒に日直業務を行っている。その甲斐あって、会話もそれなりに成り立つようにはなった。

今、俺達は放課後の教室に二人きり。最初の頃は椎名がビクビクしっぱなしで正直困った。近付けば肩をビクッと震わせ、話しかければ泣きそうになる。

あぁ、そうか。きっとそんな椎名をなんとか懐かせてやるみたいな半ば意地にも似た気持ちがいつのまにか好きに変わってたのか。ま、今も全く懐かれてはないけど。


「黒板終わったよ」

「日誌も、あと少し」


今日はテスト最終日だったからあんまり黒板消しの仕事なくてラッキーだったな。手についたチョークの粉をパンパンと払い落としながら、俺は黒板の前から日誌を書く椎名の元へ。

椎名の前の席の椅子を引いて座る。あ、また椎名の肩がビクった。


「椎名の字、綺麗だよな」

「……そ、そうかな?」

「うん。すごい読みやすい」


たぶん恥ずかしくて俺の顔を見れないんだろう。椎名は顔を上げることなくシャーペンを日誌に走らせる。

だけど、こうしてスムーズに反応が返ってくるだけで進歩だよな。やべ、超嬉しいかも。


「でき……ど、どしたの?!」

「いや、椎名の手も綺麗だなと思って」


日誌を書き終わってペンを置いた椎名の手に俺は触れた。自分の手の平の上に椎名の手を乗せて軽く握る。

指とか細くて、でもなんだか柔らかくて。俺の手と全然違うんだな。当たり前だけど。


「あ、あの……」

「ん?あ、ゴメン」


とか言いながら俺は椎名の手を離さない。椎名は顔を赤くしてちょっと困ってるみたいだ。って言ってもさぁ、無理みたいなんだよね。


「俺、椎名の手離したくないみたい」

「えっ?!」


なんて、ちょっと調子に乗りました。椎名が一番心開いてる男は自分じゃないかなんて根拠のない自信があるもんで。すいません。


「冗談だよ。日誌出しに行こう」

「う、うん」


職員室の担任に日誌を提出して、俺達はさよならした。一緒に帰れるかと思ったけど椎名は図書室に行くんだって。テスト終わったのにまだ本に囲まれるのか。

でも似合うよな図書室。いかにも本好きそうだもん。いや、もちろん良い意味で。


* * *


家に帰った俺は洗面所に立ったはいいが、手を洗おうかどうか躊躇った。なぜならまだ椎名の手の感触が残ってるから。って変態か俺。

ちゃんと薬用石鹸で手を洗い、うがいをする。これやらないと昔から母さんにガッツリ怒られるんだ。

制服から着替えるのも面倒で、そのまま部屋でゴロゴロしてたら気付いたらちょっと寝ちゃってて、そんで腹減ったから今はカステラ食いながら漫画読んでる。そしたら携帯が鳴った。着信相手はクラスのやつ。


「もしー」

『お、竜。今大丈夫?』

「全然ヘーキ。何どした?」

『今日、うちの部のやつが椎名に告ったらしいんだけど』


え、今日?それって俺とさよならした後のこと?図書室に行くって言ってたのは告られに行くためだったのか?


「へー。そんで?」

『今までの椎名の断り文句はひたすらごめんなさいか泣いちゃうかどっちかだったじゃん』

「らしいな」

『それが今日は“好きな人がいる”に変わってたらしいよ』

「……え?」


それから電話の向こうの話しなんて一切耳に入らなくて、どうやって電話切ったのかさえ覚えていない。

つーか、マジで?椎名にも好きなやつができたわけ?やばいじゃん。椎名あまり俺以外の男と話さないから完璧油断してたじゃねーか。

そうだよな。会話なんかしなくても遠くから見てるだけで好きになることもあるもんな。

あーあ。そうかよそうかよ。……って、ちょい待て。好きなやつがいるっていうのは告白を断るための嘘の可能性ってないか?そうだよ。断り文句のバリエーションを増やそうとしたんだ。そうに違いない。きっとそうだ。

よし、明日椎名になんとかして確かめて……って、ダメだ!明日まで待てねぇ!

俺は携帯をポケットに突っ込んで、机の上に置いてあったチャリの鍵をむしり取って部屋を飛び出した。





 
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