あかりがまぶしい
12.告白
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『好きな人がいないならどうして断るの? 私、わかんないよ。
 恋愛話だって、いっぱいしたじゃない。思い上がりくらい、しちゃうよ?  やっぱり好きな人いるんじゃないの? いるのなら、最初からそう言ってくれれば良かったのに……』

 メールの文字は、涙で滲んだりしない。震えで歪んだりも、高ぶったりもしない。彼女がどんな表情で何を思っているかを想像できるほど僕は彼女を知らない。彼女だってそのはずなんだ。彼女は少し思い込みが激しすぎる。
 僕は脆い危なさを本能的な部分で感じていた。

『社交的な好意を、勘違いしてもらっては困ります。
 今すぐ彼氏さんに謝ってみては?』

 分かってる、そんなことできるはずがないと。でも僕は彼女を傷つけただろうから。その傷はきっと、僕では癒すことが出来ないだろうから。それは僕にただ一つ残された救済だったと思った。
 しかし淡い期待は、裏切られるためにあるものだと知る。

『そんなこと、できるわけないでしょ。自分の気持ちが揺らいだから別れてって言ったのに、どうして戻れるのよ。
 謙ちゃんの考えに憧れて、みんなが謙ちゃんみたいな考え方を持っていればいいのに、とも思った。でも、当たり前だけど、やっぱりそんなことあり得ないのよ。
 謙ちゃんの良さは謙ちゃんしか持ってないの。その良さに、わたしは惹かれちゃったの。
 それにもうわたし、』

 この先は読みたくなかった。

『謙ちゃん以外の人を好きになるなんて、考えられない』

 先輩が、綺麗で大きな目を腫らしている様子が見えた気がした。左良井さんが涙するのを目前にした時とは全く違う、それは心の動かされない風景だった。何故僕の心は動かないのか、それに対する僕の答えはこれに限る。

「だって……僕は何も悪くない」

 携帯を放り出し、毛布を被って繰り返す。僕は悪くない。僕は悪くない。僕は……。

 ----こんなに近くにいるのに、こんなに長い間一緒にいるのに……。

 懐かしい声は、部屋の隅から僕のことを懐かしい呼び方で呼び、そして責め立てた。

 ----ケンが誰かの事を本気で好きになっちゃうのが……怖くて、許せなかった。

 僕は悪くない。僕は悪くない。僕は悪くない。

 ----もう会いにきてほしくないと、本人が言ってるんです。

 「好き」なんていう気持ちを、どうして人は簡単に求め、信じてしまえるのだろう。その感情が生み出すものを、僕はいつまでも肯定できずにあの日から今日までを生きてきた。

(だから、左良井さんを傷つけてるのか)

 僕にとって「好き」は悪夢を象徴する言葉。だから僕は、左良井さんと左良井さん対する僕自身の気持ちを受け入れられなかった。
 『変なこと言ってごめんね。おやすみ』という返事が深夜2時頃に来ていたことを知ったのは、霞んで消えてしまいたくなる程に気だるい翌朝になってからだった。

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