あかりがまぶしい
10.二年生夏
59
「楽しかったねー、またみんなでやりたい」
 いない人のことを考えながら遠く海を眺めていた僕の隣に、紙コップや紙皿をまとめたゴミ袋を手に提げた可那子さんが並んできた。伸ばした髪は右耳の下辺りに結わえられて、彼女の表情をより穏やかに見せた。少し焼けた肌に落ち着いた茶髪が女性らしさをにおわせる。
「あたしの地元、海が無いんだ。だからこうして浜辺に集まってバーベキューとか初めてなの。初めて参加したときは『え、こんな素敵なこと出来るの!?』って驚いたくらいだよ」
 生き生きとした表情はとても新鮮に映る。左良井さんがこんな風に笑うところ、一度でいいから見てみたかったかもしれない。
「それは、いい経験になったね。そんなに楽しんでもらえると地元民としては嬉しいよ」
 とはいえ、僕もそんなに頻繁に海に行ったことは無いんだけどね、とおどけて言うと彼女はころころと笑った。素朴に、可愛いなと思う。
「おいおい、青春してんじゃねーよー」
 並んで歩く僕らを学科の男子がはやし立てた。
「はは、わるいわるい」
 手の平を振って柔らかに否定しても、ニヤニヤと下品な笑みしか返ってこない。考えることが若すぎるというか、これが大学生か。
 可那子さんの方を伺うと、気まずそうに固く口を結んでいた。
「気にすることないよ、ああいうのは茶化すのが楽しいだけでしょ」
「うん……ごめん……」
「謝ることもない」
 素直だ、素直すぎて面白い。
「わ、笑わなくたっていいじゃん」
 思わず口元だけ笑ってしまうと、可那子さんも少しだけ笑って返してくれた。
 これからはみなそれぞれで帰宅だ。日に当たって疲れた身体は、とても二次会には耐えられないだろう。現に、誰もこの次の予定を言い出してこない。まあ、酒なんてみんな浜辺でしっかり飲んでいたが。
 再び振り返る。すぐ近くにあるのに自ら出向こうと思わなければなかなか足を伸ばさない、海が目の前に広がっている。その片隅に確かに見えた影。
「えっと、ごめん。みんなには先に行くよう言っといてくれる? 僕はここで解散する」
「えっ、うん……」
 彼女の返事を待つことはおろか、言うより先に身体が動く。
「あー。もう、行っちゃった……」
 寂しそうに呟いた可那子さんの声が、このときの僕に届いたはずがなかった。

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