あかりがまぶしい
8.うそつき
52
 公園で待ち合わせなんて、ベタなようでいて洒落ていると思った。大学で会うことをやんわりと断られた代わりに、大学前駅にほど近いこの広々とした公営公園が選ばれた。
 遊具の少ない、ゴミ箱もない、ただ広いだけの公園。花壇を彩る花は綺麗に手入れされていて、雑草を抜いたばかりなのが一目見てわかる。
 鞄をベンチに座る膝の上から体の右側におろすと、ガサリと中身が鳴った。それと同時に駆け足でこちらに駆け寄る女の子が一人。今日ここに来た目的が思い出される。
「お待たせっ。ごめんね遅くなって」
「いや、まだ約束の時間の五分前だし。走らなくても良かったのに」
「越路くんいつからいたの……」
「暇だったし、天気もいいからちょっと早く出ちゃっただけ」
「ほわあ、焦っちゃったよー」
 隣いい? と聞いて志摩さんはすとんと腰をおろして呼吸を整えた。
「今日はどちらまで?」
「んー。まずお昼ご飯食べて、少し本屋さんに寄りたいの。そしたら……」
 この辺は都会と違って娯楽が極端に少ない。娯楽に自分からお金を投じることはほとんどしないが、楽しみを共有するためなら多少の出費は仕方ない。
「……で、映画見て、今日は終わり! 越路くんは何か用はないの?」
「ああ、忘れるところだった」
 さっきから鞄の中でガサガサしていたものを取り出す。
「はい。ハッピーホワイトデー」
 呆気にとられた表情が数秒フリーズした。大きな目が僕と僕が差し出したものとを見比べて、
「わああ! あ……ありがとう!」
「僕の好みで買ったお菓子なんだけどね。お口に合いますように」
 食べ物のプレゼントは、食べてしまえば何も残らない。相手の好みもわからない間柄には大変無難で優秀な贈り物だと思って、安心して選ぶことが出来た。
「大丈夫! あたし、好き嫌いない子だから」
 ふふっと歌うように笑いながら、彼女はプレゼントをそっと鞄の中にしまった。そして、そろそろ行こっか、と弾むように立ち上がる。
 並んで歩く彼女の頭は僕の肩の位置くらい。全国平均より少し低いくらいだと彼女自身言っていたような気がする。
「この間ね、友達に『越路くんって恋人としてどうなの』って聞かれてね?」
 そんな、まだまだ付き合って間もないのにさっ、と両手をふりふり、明るく笑いながら彼女は話す。
「頭もいいし優しいし、全然怒らないんだって言ったら『そりゃ想像つくよ』って言われちゃった」
 ちらっと僕の表情を伺うようにして、彼女は言葉を濁しながら口を開く。
「あたし、みんなが知らない越路くんが知りたいなーなんて、思ったり、思わなかったり?」
 みんなが知らない僕、か。
 大学に入学して一年が経とうとしていた。まだ話したこともないような人もいれば、永田や左良井さん、そして志摩さんのように一緒に過ごす時間が多くなってきた人もいる。そして僕の過去を知ろうとのは、志摩さんが初めてではなかった。
 ――なあ越路、お前昔なんかあったのか。
 ぐつぐつ煮える鍋の音がよみがえったような気がした。
「あ、ごめんなさい。なんかわがままみたいになっちゃったよね……気にしないで」
「いや別に。ただ僕から話すのは少し難しいから、聞きたい事があったらいつでも聞いていいよ」
 永田との会話、そしてそれからあった出来事を思い出していたら、会話が止まってしまっていた。僕がにこりと笑ってみせると、志摩さんは心から安心したように口元を緩めた。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -