あかりがまぶしい
8.うそつき
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 僕に許しを請うわけでもなく、ただ謝罪の意を述べる彼女を目の前に僕は、どうして彼女が謝っているのかを考えていた。
 確かに僕が彼女のことを考える時間は、日に日に僕の一日の多くを占めるようにはなっていた。それを形はどうあれ、『好意』であると自覚しないほど僕は愚かではない。
 考えてみれば、仮に僕が今彼女に告白したとして、彼女がその告白に応えなくてはならない義務なんてどこにもない。今この部屋には彼女が謝る必要も、僕が傷つく理由もないのだ。
 もしかしたら彼女は、形のはっきりしない僕の気持ちに気付いてこんなことを言い出したのかもしれない。それは実に合理的なことだ。付き合ってる人がいるのに、その人のいないところで他の異性と仲良くするのは、程度の差こそあれ好ましいことではないと聞いたことがある。彼女の言葉を借りればそれは、『不誠実』だ。実際彼女はそれに罪悪感を感じて僕に事情を打ち明けたのだ。僕に対する考慮を差し引いたとしても、合理的な範疇から数ミリも越えない。
 それなのに。
「そっか、じゃあ左良井さんにとって僕は何でもないただの一人の男だったのか」
 はっとしたような表情で、彼女が僕の口元を見つめた。
「僕が君を見ていたときも、君の心には僕じゃない人がいた」
「ち、ちが……」
 僕は彼女のことをいつも「左良井さん」と呼んでいた。君、だなんて他人行儀な呼び方をするのは初めてだった。
「違ってはないでしょ。君はその彼氏と僕とを比較していた、何も間違っちゃいない」
 そして僕は天秤の皿から落とされた。
「違うなら、どう違うって言うのかなあ……僕には分からないよ」
 僕が何よりも得意な笑顔という表情で話しかけているのに、左良井さんはだんだん息を詰まらせていっている。
「それは……」
 僕は彼女だけを見つめていた。そして彼女も同じように、僕のことだけを見つめてくれていたと思っていた。でもそれは甚だしい勘違いだったのだ。
 僕は彼女の何を見つめていたと言うのだろう。今では彼女を見つめることさえ辛くて仕方がなかった。お互いがお互いを思っているはずなのに、それが今は何よりも辛かった。
「裏切られるくらいなら、嫌われた方がずっと気が楽だったのにな」
 彼女はあまりに、身勝手だ。
 そして彼女だけを責める僕もきっと、同等かそれ以上に身勝手だ。
 僕の口をついた台詞に、彼女は何の言葉も返さずただ涙で頬を濡らしていた。何か言いたそうな顔をしているのに、涙のせいで上手く言葉が出てこないようだった。
「あの、でも、言いたかったのはそのことじゃなくて……痛っ!」
「きっと僕が目の前にいるから話せないんだと思うよ、もう帰った方がいい」
 彼女の声が鼓膜を震わすだけで、彼女の姿が目に入るだけで、僕は形にならない感情でいてもたってもいられなかった。彼女の腕を強く掴んで玄関へと引っ張った。

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