あかりがまぶしい
8.うそつき
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 いただきます、と小さく呟いて左良井さんがお茶を一口含んでから、一つの雑談もなく話は切り出された。
「話したいことって?」
「ああ、ええと……」
 ちらっと机の上に戻された小包に目をやる。
「たぶん、長くなる。左良井さんの話から聞くよ」
 そう、と呟いた左良井さんはまたしばらく沈黙を保った。みんなが言うほど沈黙はちっとも息苦しくない。
 息苦しいのは、相手を意識しすぎるからだろう。
「私、実はね……」
 その時の彼女の顔の、なんと悲しげなことであったか。
「付き合ってる人がいるの」
 その言葉は今までの会話の流れからも、今までの僕らの関係からも唐突だった。僕が何を言ったわけではなかったが、話を進めていいと判断したのか、彼女は自ら告白を始めた。
「付き合い始めてもうすぐ、二年くらいになる」
 二年。それは僕たちがお互いの存在を知るよりも前の話だった。
「どうして今、言ってくれたの?」
 詰問っぽくならないように気を付けても、僕の言葉は彼女の顔をさらに俯かせるばかりだった。
「越路くんのことが、好きになりそうだったから、言えなかった」
 そして僕の目を覗きこむようにして、彼女は続ける。
「越路くんのことが、好きになっちゃったから、言った」
「僕の、こと……」
 こくり、彼女は顎を引いて頷いた。
 僕のことを、好きに。彼女の言葉を頭の中で反芻する。
「このままだったらあなたを好きになってしまうと、薄々気付いてはいたの。あなたに、『左良井さんは付き合ってる人がいる』って思われるのが、何となく辛いと感じていたから。
 でもそうしているうちに、私は本当にあなたのことを好きになってしまった。こんなに好きなのに、私はいつまでも嘘をついて隠し続けている。それに、私は耐えられなかった」
 普段の彼女の持つ、凛とした声の響きさえ今ではもはや失われていた。
「こんなの不誠実だって、分かってた。でもあなたがいい人で、私は……」
 一旦閉ざしてしまった彼女の唇が再び開いたとき、薄い前歯に唇が持っていかれそうになっていたのが見えた。
「私は、私の都合のいいように動いてしまったの」
 すがるような目で僕を一瞬見つめ、何かに気づいた様を見せて左良井さんはまたうつむく。
 そして聞こえるか聞こえないかの声量で、
「……ごめんなさい」
 そう呟いたのだった。

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