あかりがまぶしい
7.一年生冬
44
「おはよう、左良井さん」
 その日、午前一番の講義が終わるのを逸る思いで待っていた。90分の講義で描きたまったルーズリーフをトントンと机で揃える左良井さんは、僕の声に目だけで応じた。左良井さんをこの距離で目にするのはだいぶ久しぶりな気がする。
 隣で睨む咲間さんが視界の端に映っていたけど、僕は気にせず話した。
「ニュース、知ってる?」
「……知らない」
 不審そうに尋ね返す様子に、僕は少し後悔をした。その大学と彼女に何か関係があるなんて確証はほとんどない。それに、この事はいずれ彼女の耳に入ることだろう。
 僕が、今、言う必要なんてどこにもないのに。
「ええと……場所、変えてもいいかな」
 今年から図書館に喫茶店が出来たんだって、と付け加えると、左良井さんは小さく頷いた。咲間さんがもう一つ僕を強く睨みつけてから、「いってらっしゃい」と小さく呟いた。左良井さんは咲間に薄く微笑み、小さく頷いた。
 歩き出しても僕らの間は無言のままで、僕は頭の中でどういう話の切り出しにするかを考えていた。





 僕の話を聞き終えた左良井さんは、そう……と呟いて頬杖をついた。視線の先には枯れることのないレプリカの観葉植物があるだけ。
「ごめん、やっぱり余計なお世話だった。僕がわざわざ言うことじゃないとは思ったんだけど、ね」
 僕も今朝ニュースを見たばかりでそれ以上の詳細は知らない。涙も、ため息さえもこぼさない左良井さんの様子を、僕はただじっと見つめるしかなかった。
「私の出身なんてよく覚えてたね。確かに私はそこを受けた。そして、落ちたわ」
 落ちた、という語感の軽さが僕の後悔をさらに深くさせる。
「いいのよ、もう。だってもしその人がいなくたって私は落ちてたかもしれないし。もし受かっていたとしてもその集団の中で私は最底辺だってことでしょ。素直に喜べないわ」
「入学当初の成績なんて気にするほどのことじゃないさ」
「私は、自分を見失ってここまで逃げてきた」
 僕の言葉は遮られる。小さくて、しかし鋭い声だった。
「立ち向かえなかった。疲れきっていたのよ」
 出ましょ、と左良井さんに促されて僕たちはテーブルを立って小さな喫茶をあとにする。

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