あかりがまぶしい
7.一年生冬
39
 眩しい日々に隠された本当の気持ちに気づけなかった僕は、無傷のまま二人の人を傷つけた。
「それと左良井さんと、関係あんの? ……あっちち」
 永田の怪訝な顔が、蓋の開かれた鍋の湯気に隠される。
「もっと早くに僕に会っていたら良かったって、言われたんだ」
「それくらい……」
「そう言われて、胸に飛び込まれた」
 求められたわけでも、求めてきたわけでもなかった。ただ彼女は僕に少し体重をあずけただけで、何かされたわけでも愛を告げられたわけでもないのだ。
「僕の心はなにも動かなかった。いやむしろ、怖かった」
 感情が動かない自分が、一番怖かったのかもしれない。正直それは得体が知れなくて、自分自身戸惑いを感じているのも確かだった。
「会った時から左良井さんと話すことは楽しかった。似ているようで、でも僕とはやっぱり違って――きっと僕にとって彼女はなにか特別で、彼女にとって僕もそうだったんじゃないかと思う。
 でも、彼女の告白に戸惑う僕がいた」
「お前、左良井さんのこと好きなんじゃねえの?」
「好き? そんな低俗な感情なんか持たないよ」
「低俗って、お前……」
 眉毛をヒクリと動かして永田がまじまじとこちらを見てくる。それはいつか見た、志摩さんの固まった表情にも似ていた。
「なあ越路、お前昔なんかあったのか」
 昔? 僕には思い出せるような過去なんてない。
「何を根拠に。小説じゃあるまい」
 強がって箸を鍋に持っていく。しかしちっとも食欲は湧かないので適当に白菜や水菜をちまちまと拾うに留めた。
「昔の嫌なことを思い出したり改めて言葉にするのは辛いけどさ、辛いけど、悪いことじゃねーと思うんだ」
「……」
「強要するわけじゃねーよ? ただ……おせっかいかもしれないけど……」
 永田の言葉を待たずして僕は口を開いた。

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