あかりがまぶしい
6.一年生秋
35
 鍋に水をたっぷり入れて、コンロの火にかけた。パチチチ、と小さな音を立てて蒼い炎が勢い良く燃え上がる。
嘘をつかない方が楽しく笑えるよ
 先ほどの志摩さんの言葉が心に残る。
 嘘をつかない方が楽なら、例えば永田なんかがあんな風に苦しむことはなかったんじゃないだろうか。
 泣きたい時に泣く事が楽なら、どうして人知れず涙をこらえる人がこれほどまでにいるのだろうか。
(そういえば……)
 いつだったろう。少し前に、左良井さんとこんな話をしていた。





 その頃の僕らの関心は「嘘」そのものについてだった。
「一つ嘘をつくとその嘘を隠すためにまた嘘が増えていく。だから嘘をついちゃいけないって――昔はよく言われたものだったね」
 全部嘘だったらな、なんてこと、あるよね――
 嘘にしたい世界の事も、出来る事なら消し去ってしまいたい自分自身の事も、僕たちはお互いを悟っていた。しかし悟るだけ。
 例えるなら、皮の剥けているリンゴが比較的食べやすくて、甘い果実を僕たちは少しずつかじりながらそれでも本当に甘い蜜の部分を晒したりする事はない――そんな感じ。
「それを永田に言ったんだ、嘘は嘘を呼ぶ。それが嘘をついてはいけない理由になるのか……ってね」
「彼はなんて言ったの?」
「『嘘を使ってもいい相手と使っちゃいけない相手がいると思う』だってさ」
 『本当≠どこかで放出できていれば、どんなに嘘をついていてもいいんじゃないか。許されるかどうかは別問題だけどな』と、彼は付け足した。そのことも左良井さんに伝えて、僕は肩をすくめて笑う。
「そんな考え方もあるんだなあって。目から鱗だったな」
 意外にも、左良井さんはそっけなく答えた。
「目から鱗は言い過ぎよ」
「へえ、じゃあ左良井さんはこういう考え方が出来る人なの?」
「出来ないけど」
「じゃあ、目から鱗じゃないか」
 呆れたようにため息をつく左良井さん。そんな表情も、僕は嫌いじゃなかった。
「驚きの発見っていうほどではないわ。ただ……綺麗すぎる」

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