あかりがまぶしい
3.幸せと不幸の比率
13
「まあ、確かに大学は自由だ。よく似合ってるよ」
 さんきゅ、と永田くんが答えると、会話は途切れた。僕は話題を見つけるのが苦手だ。勉強を続けようかと気持ちを切り替えようとしたとき、彼がなにかと呟いた。
「……は……よな」
「はい?」
 もご、とそれだけ呟いて、また僕と彼の間に沈黙が降りる。
「ごめん、聞こえなかったんだけど」
「いや、いい。なんでもねーよ。
 ……そういや越路って、左良井さんと知り合いだったんか」
 突然の、予想だにしなかった質問に僕は永田くんのつぶやきを忘れ拍子抜けする。
「いや? ……なんでまた」
 なんでって、と彼はおかしそうに笑う。
「飲み会の時もなんか一緒に帰ってたし、よく二人で話してんじゃん。まだ入学して半年も経ってないのにあんなに仲いいほうが不自然だって。『付き合ってんの?』って聞かなかっただけ優しいと思えよ」
 彼の話を意識半分に聞きながら、最近は自分のことを褒めることに抵抗のない若者が増えたなあとぼんやり考える。
 『付き合ってんの?』と聞かれても不思議じゃないように見えるということは、周りのみんなもそういう風に思っているんだろう。それを聞いたら左良井さんは……どう思うのかな。
「なんでもないよ。入学式で偶然隣同士になって、それでよく話すようになったのは確かかもしれないけど。みんなの期待に添えないっていう意味では残念かもしれないね」
 永田くんの訝しげな表情に僕は少し不安になった。なんか、変なこと言ったかな。
「越路ってなんか面白いな。なんていうか、今までに会ったことないタイプって感じがする」
 見るものの気分を陰から陽に変える笑顔。不安は、どうやら杞憂だったらしい。
「早くしないと左良井さんみたいな綺麗な人にはすぐ男ができちゃうぜ? 頑張れよー、どうなんだよー」
 ……おせっかいなやつ。僕は少し自分の口元が緩んだのに気づいた。
「どうって言われてもなあ……たぶんお互いにそういう感じではないんだよ、きっと。永田くんはどうなのかな」
「くん≠チて……気持ちワリィから永田でいいよ。
 俺はそうだなあ……左良井さんも好みだけどもうちょっとカワイイ系が好きだな。ほら、志摩可那子ちゃんとか。
 って、俺の話はいーんだよ。左良井さんってどんな人なんだ」
 食い下がる人にはあくまで素直であること。それは僕が経験的に学んできたことの一つ。
「どんな人かは……正直僕にもわからない。逆に、何も見せてくれないところが魅力的なのかもしれない。そうだね、みんなが思ってるほど僕は左良井さんのことを知らないよ」
 ふうん、と大層楽しそうに相づちを打った後、
「大学生活なんてきっとすぐに終わっちまうよ。俺も何となく過ごしたくはねえな」
 と僕の肩をポンポンと叩いて休憩室を後にする。彼の姿が見えなくなると、彼が来る前よりもずっと静かな空間に残されたようだ。
「永田くんと越路くんが話してると、なんだか脅されてるみたいね」
 音も無く僕の前に現れた左良井さんに、僕はひえっと奇声を上げて驚いてしまった。いつ、どこに、なんで……その他5W1Hありったけの疑問が駆け巡る。
「何その声? 変なの」
 いつものことだけど、くすくす、という擬音で表現しても余るほどの控えめな笑い方だ。僕の向かい側、さっきまで永田く……永田が座っていた椅子に音もなく座る彼女。右手で頬杖をついて外の景色を眺める彼女は「へえ、ここから海も見えるんだ」と楽しそうにつぶやいた。所作美人ってこういうことを言うのかもしれない。
「あー……大した話はしなかったはずだよ」
 僕のしどろもどろな様子は完全に相手にされなかった。
「何も見せてないつもりは無いわ。知りたいことがあれば、答えられる限りなんでも答えるわよ?」

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