私さえいなければ、真奈美先輩がこの世を去ることはありませんでした。でも、望みが全くなかったわけではありません。
越路先輩、あなたに救って欲しかった。
私を傷つけてでも、私から真奈美先輩を守って欲しかった。
それが出来るのは、きっと越路先輩だけだったでしょうから。
そう思っていた時期もありました。きっとそのことで越路先輩も、ご自分を責めていらっしゃるのではないかと存じます。
でも最近になって、それは大きな間違いだと気付きました。
真奈美先輩が最後に息をしていた瞬間、あなたが叫んだ「やめろ」という言葉は確実に届いていました。倒れる真奈美先輩の目から流れる涙と、その後でゴクリと動く白い喉を、私は確かに見たのです。
私が話せることは、以上になります。
最後になりますが、償いになるのかどうかもわからないままに幾らかの写真をお送りします。お送りした分を除いて、問題の写真を含めた手元の写真はとうの昔に焼却しました。私の手元に先輩方が写っているデータはもうありません。ご自由にお取り扱いください。
さようなら。真奈美先輩の分まで、どうかお元気で。
かしこ
瀬崎菜津子』
どうやら遺言のつもりらしい。いやにはっきりと落ち着いた筆跡で書かれた手紙だった。突然に送られた遺言めいた手紙を、どうしてか落ち着いた気持ちで読んでいる僕がいた。脇では永田が一枚一枚丁寧に写真に目を通している。
僕も数枚手に取ってみる。
生徒会室でファインダーを覗くマナ、ハセに馬鹿な話を持ちかけて朗らかに笑うマナ、僕と一緒に会議資料を睨みながら、真剣な表情で口を開いているマナ。適当に手に取ったのに、どれもよく写っている。写真の向こうで笑う僕たちの中に、カメラを意識してぎこちなく笑う表情は一つもない。瀬崎が腕のいい写真家だというのは、本当らしい。
「良い写真、発見」
永田がそう言いながら、一枚を僕にそっと渡した。手前には、おそらくいつものようにハセとくだらない話をしている僕が写っている。しかしピントはそれよりももっと奥に合わされていた。
「はは……綺麗な顔だ」
触れたら消えてしまう小雪のようなマナの笑顔だった。ただ静かに微笑みながら、切なそうに僕を見つめる優しい視線が胸に痛い。
忘れかけていたあの日のままのマナ笑顔を思い出せて、僕は少しだけ、でも確実に救われた。