『越路謙太様
前略
何度も筆をとってはみたものの、罪深さに最後まで言葉をしたためることもままならず、驚かせてしまうことを承知でこうして突然にご連絡をとることと相成りました。申し訳ありません。
もう一度真奈美先輩に会いたいと、願うことも許されない日々は存外に苦しく、きっと私は近いうちに自らこの世を去るのだろうと思います。その前に、出来ることをすべて片付けて、言いたいことを言ってしまってから終わりにしたかったのです。
写真部で真奈美先輩にお会いした瞬間から、真奈美先輩を美しく撮ることが私の生き甲斐になりました。体の表面から滲み出るほどの人の良さ、それでいて自分というものを強く持っている先輩を見るたびに胸が熱くなる感覚を覚えました。
ある日、先輩の口から越路先輩と許斐先輩の存在を知り、その楽しそうな口ぶりに無性に苛立ったことを今でも覚えています。私はお二人に今すぐにも会わねばならないと思ったのです。
生徒会室に出入りできるようになってからは、真奈美先輩の様々な表情をカメラに収めることができました。収穫といえばそうなのですが、私は全く満足できませんでした。このような先輩の写真が、”あなたがいないと撮れない"ことに気づいてしまったからです。
そしてついに私は、人道を失いました。
あなた方さえも知らない先輩を、誤った方法で求めてしまいました。
有頂天でした。あなたたちの名前を出せば、先輩は私の要求に応えてくれました。形だけでも好きな人を所有できたような気分になれて、心から嬉しいと感じていました。
しかし先輩の心まで支配することは出来ませんでした。先輩の中にはいつも、越路先輩がいましたから。
越路先輩が私に対して警戒心をお持ちだったのは、初めてお会いした日から分かっていましたから、どうやって先輩の心からあなたを追い出すか、かなり悩みました。そして至ったのが、「越路先輩に、真奈美先輩を裏切らせれば良い」という結論でした。
部室でコンクール用の作品の準備を詰めていた真奈美先輩に、"越路先輩に個人的に呼ばれている"と一声かけて生徒会室に向かう。準備はたったこれだけでした。後は越路先輩と無駄な話をしながら、入り口に注意を向けていれば良かったのです。ひっそりとした気配を感じたら、越路先輩の唇を奪う。計画はそれだけでした。先輩の警戒が思った以上に固いものだったので、計画通りに実行できたのは幸運の一言に尽きます。
幸運、と呼ぶのは不適切ですね。すみません。
生徒会室を後にして階段を降りる私に、真奈美先輩はすかさず声をかけました。もうあの時の真奈美先輩に、私に逆らう術はないと、当時の私は確信していました。
あの真奈美先輩が手段を選ばないなんて、心にも思っていなかったのです。
あとは、先輩が目にした通りです。