あかりがまぶしい
2.新入生歓迎会
10
 浅く短い眠りを何度か繰り返し、日が昇るのをカーテンの隙間からみていた。始発電車にでも乗って帰ろうと思っていたが、帰り支度を終えてはたと気がつく。
(左良井さん起こさないと、玄関の戸締まりが出来ないや)
 窓辺のベッドで横たわる左良井さんの寝息は、昨晩に比べてずっと安らかだ。
 ―― だから私はここにいるの。失敗してなかったらここにはいないの。
 昨日の話は鮮明に記憶に残っていた。きっと、酔って感情が少々高ぶってしまったのだろう。他人の秘密を言いふらすような趣味は無い。左良井さんが望まない限り、僕は昨夜のことは誰に言うつもりも無かった。
 枕元にしゃがみ込み、左良井さん、と声をかける。薄く開いた目の端に涙の跡をみた。
「僕、帰るよ。長居してごめんね。玄関の鍵だけ締めてもらえると安心なんだけど」
 二、三秒の沈黙のあと、恐ろしいほどの大きさに見開かれた両眼に僕は腰を抜かしかけた。瞬く間に掛け布団をブワッと音がするほど勢い良く頭まで引き上げて、左良井さんは布団に潜った。
「……あ、あたしが、部屋に呼んだんだっけ……?」
 どうだっただろう、正直僕の記憶も怪しいが。
「いや、まともに立てなそうだったから僕が肩を貸したんだ。少なくとも左良井さんが呼んだわけではないし……その……」
 記憶ってどれくらいのことまでなくなるんだろう、と思いながら付け足した。
「心配されるようなことは何一つ、してないよ」
 酔った女の子をたぶらかすほど、僕のモラルは低くない。
「それはわかる」
 そういって布団の中で左良井さんが小さく笑ったのが聞こえた。肩の緊張がほぐれる。
「そりゃよかった、どうやって証明しようかと思ってたところだったんだ」
 ごそりと目元だけ布団から出して、左良井さんはまた目を細めて笑った。
「帰るんでしょ、見送るよ」
 言われるまですっかりここが左良井さんの部屋であることを忘れそうになっていた。一晩看病したとはいえ、もう僕がここにいる理由は無い。
「ああ、うん。じゃあおいとまします」
 外出用の小さい鞄が一つ、ハンカチその他諸々……うん、忘れ物はなさそうだ。昨日の記憶はまだあるからここから駅までの道のりはたぶん分かるし、今ここを出て少し急いで歩けば乗ろうと思っている電車には余裕で……。
 余裕で……?
「さ、左良井さん?」

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