単調になった彼女の寝息を聞きながら、僕は考えていた。
なぜ彼女は僕にこんな話をしたのか。
なぜ彼女は僕を部屋にあげて、留めたのか。
論理とか裏付けとかを考慮に入れることのないただの疑問。それを手の平で転がして弄ぶだけだったかもしれない。
彼女の行きたかった学部ってどこだろう。いくつか候補は挙がるが、きっと難易度の高い学部だったに違いない。
以前の実習の日のことを再び思い出す。あの飲み込みの早さはあの中でことに際立っていた。学部そのものを変更するくらいの選択――一体どんな気持ちだったのだろう。
きっと彼女は、芯の強い人間に違いない。そのような選択に踏み込めた人間。そして。
(僕にそんな強さはない)
真っ直ぐに見つめてきた彼女の視線を思い出す。それに迫力を感じたのは、見つめてきたのが彼女だったからだ。
彼女は普段、人と目を合わせることをしない。そういえば先輩達と話していたときも、彼女はややうつむき加減だったり、グラスの中のお酒を見つめていたりしていた。そんな彼女に見つめられたから僕は。
(僕は……?)
そこでふと、新たな疑問に突き当たる。
なぜ僕はそうと言い切れるのだろう。
僕はなぜ普段の彼女のことを知っている風な口ぶりが出来るのだろう。
……無意識に僕は、彼女のことを目で追っていたとでも言うのだろうか?
一瞬思って、まさかね、と苦笑した。そんなわけあるか、まだ入学して二ヶ月だというのに。
確かに彼女には、入学式当初から興味を持っていた。まだ寒かったとはいえ、入学式の雰囲気でざわついていた控え室の中で一人、虚空を見つめていた彼女。まだ僕の記憶には十分新鮮だ。
彼女が僕に向かって言った言葉。
『全部嘘だったらな、なんてこと、あるよね』
それに僕はこう答えた。
『例えば……この、入学式とか』
『気の利いたこと言うね』
彼女はそう言ってうっすらと笑った。しかし今日彼女の話を聞いてもなお、この会話はつながったようでつながった気がしない。
彼女の容態が落ち着いたら終電にでも乗って帰ろうかと思っていたけれど、介抱して話し相手になっているうちに終電の時刻も過ぎてしまった。何より、帰ろうという気力がもはや僕には残されていなかった。酔いと疲労が、睡魔に変貌して僕を襲う。そのせいか、彼女の話も印象を薄くしていく。ソファを背もたれにして、身体を委ねた。
(どうして僕はここまで彼女のことが気になるのだろう?)
にわかにやってきたまどろみには、疑問符が尾を引いた。