「今日はトシの誕生日なんだって?」
そういえば、と読んでいた新聞からふと顔を上げて十四郎をみやる。
すると大きな目が真ん丸になっていて、あ、可愛いなんてひとりで心の中で呟いた。
しばらく可愛いなぁと楽しんでいたのだが、動きを止めてしまった十四郎が動き出す気配がない。
あれ、俺間違えた?と持っていた新聞を傍らに置いて首を傾げた。
「あれ、今日じゃなかった?」
「あ…う、う…き、きょう、です…」
どもりながらもこくりと頷いて俯く。
聞いてはいけないことだったのだろうか。
なにか嫌な過去でもあるのだろうか。だとしたら謝らなければならない。
なにせ大分慣れてくれたとはいえまだまだ俺たちは知らないことがたくさんあるから。
「ごめん、あんまり思い出したくなかった?」
だったら、本当にごめん。
目の前に晒されている旋毛あたりにそっと触れて、毛並みを崩さないようにゆっくりと撫でる。
すると俯いていた十四郎の頭がバッと起こされた。
「いや、じゃ…ない、です」
「え?」
「う、ぁ…あの、あの…」
突然のことにびっくりしてじっと十四郎を見つめれば泣きそうになりながらあたりに視線を泳がせている。
「大丈夫。ちゃんと最後まで聞くから、ゆっくり話してみ?」
「あ、う…う、」
大丈夫、もう一度言い聞かせる様に少し力を込めていう。
するとこくりと小さな頭が揺れた。
「いま、まで…たんじょび、なんて…いわれたこと、なくて…」
「うん」
「でも、にいさんがたんじょびは、だいじにしろって、いってて」
「うん」
「ずっと、ひとり、だった、から…っ」
うれしかった。
躊躇いがちに、ちょっとだけ口元を綻ばせてくれる姿がとても儚くて。
「これからは、俺と一緒にお祝いしような」
「う、ん…」
幾分か大きくなった、けれど未だ華奢な体をしっかりと抱きしめた。
これからは僕と一緒
-END-