bikeschool | ナノ

10000hit企画

bikeschool


よくお前は悩みがなさそうでいいなと言われる。
容姿端麗、成績優秀スポーツ万能。みんなが欲しいもの全て持ってるじゃないか、と。
悩みなんてひとつもないだろう、なんて。

そんなばかなことあるわけないだろうが。
誰にも言っていないが俺にだって悩みのひとつやふたつ持ってる。
………ただそれを絶対に言いたくないだけで。





【とっぷしーくれっと】






眠たい時間をなんとか耐え抜き、ようやく昼飯にありつけると腹を鳴らしたところで静かにそれは投下された。

「来週の土曜日あたりにサイクリングに行かないか?」

「「サイクリング?」」

「おう!」

総悟と山崎が声をハモらせて首を傾げると、事の提案をした近藤がニカリと笑って頷いた。

「だいぶ暖かくなってきたことだし、気持ちいいんじゃないかとおもってな!」

「確かに、暑すぎず寒すぎずでいい季節ですし」

行きましょう、と山崎が賛同し総悟もまた近藤さんがいうなら、と頷く。
そんな中で俺はひとりだけ一言も発することができず興味がないふりをして弁当をつついた。

そう俺の悩みは自転車に乗れないこと、だ。

まだ幼かった頃、兄に付き添ってもらいながら練習したことがある。その時に勢いよく発進しすぎてすっころび、驚きのあまり大泣きしたのだ。
それ以来、兄が過保護であったことも手伝って自転車禁止令が出されている。
幸か不幸か自転車を使わなくても生きられる環境にあったがために、今まで必要としなかったのでそのままにしていたのだが、まさかこんなところで必要とするようになるとは。

あのとき駄々をこねてでも練習を続けておけばよかったと後悔しても、全て後の祭りだ。

しばらく幼い頃の自分に文句をたれていれば、知らないうちに話の舞台へと引きずりあげられていた。

「もちれんトシも行くよな?」

「いや、俺は…」

「あーれれ、土方さんもしかして、自転車に乗れないんですかィ?」

小バカにしたように見下されそう言われると、カチンときていつもの癖でつい反射的に口を開いた。

「んなわけねぇよ!自転車ぐらい乗れるっつの!」

「えぇ?ほんとですかィ?無理しなくてもいいんですぜィ」

「無理なんかしてねぇよ!バカにするのも大概にしやがれ!」

と、売られるままに買ってしまったそれにやってしまったと内心青ざめる。
けれど今さら撤回できるはずもなく、あれよあれよと言う間に時間や集合場所まで決まってしまったのだった。



***



「で、自転車の練習につきあえと?」

「……あぁ」

ジトリと赤い目に睨み付けられ、居心地の悪さにそろそろと視線を反らす。
するとしばらく黙っていた銀時ははぁ、と小さく息を吐き出した。
「俺が、お前が近藤たちとつるむの嫌がってることお前も知ってんだろ?」

「…おう」

「でもお前の交友関係壊すのは嫌だから我慢してるのも知ってるよな?」

「う、ん…」

「そんなんでお前、よく俺に頼もうと思ったな」

もっともな意見に、俯くしかなかった。

俺と坂田は付き合っている。
きっかけはお互いに一目惚れというなんともこっぱずかしいものだが、それなりにうまくいっていると思う。

………坂田が異常なほどに独占欲が強いということ以外は。

近藤さんや総悟と話すことはもちろん、酷い時には俺が触ったプリントやシャーペンにまで嫉妬する。
これは付き合い初めてから発覚したものだった。
それもなんとか話し合って説得し、不満げにだが認めてくれているという状態だった。

そんな銀時からすればただでさえ不満なのに自分以外の男と遊ぶための手伝いなんてしたくないだろう。
俺だって心苦しい。
けれど銀時以外に頼めそうな人はいなかった。
だからここは持ち得る全ての策を使ってでも頷いてもらわなければならない。

「俺だって…お前に頼むのはダメだって思ったけど…お前以外に頼れる奴、いなかったんだ」

チラリと伺うように上目遣いに見上げて眉尻を落とす。
銀時が喉をぐっと詰まらせたのを確認して、きゅっと銀時の長い指先を握った。

「な、あ…ぎん、」

暫くの間赤い目を見つめる。
すると最初はへの字に曲げられていた唇が開き眉根が寄せられた。

「あーっ、もう!!お前反則!」

ぐしゃぐしゃと銀色の髪が掻き回される。その反応に身を乗り出した。

「え、じゃあ!」

「しょうがねぇから見てやるよ。そのかわり、次のゴールデンウィークは覚えてろよ?」

「う、ぇ…」

「当たり前だろーが。それなりの対価がいるんだよ!」

嫌なら別にいいけど?となんとも腹立たしいイントネーションで言われイラっとする。
けれどここで切れて練習を見てもらえなかった場合の方がめんどくさいことになるだろうと自分に言い聞かせて渋々賛同する意を表した。

「よし、そうとなれば練習すっか」

「え、い、今からすんのか?」

「当たり前だろうが。お前がどんだけ乗れねぇのか分かんねぇんだから」

ほら、行くぞ。と有無を言わさず引きずられる。
あぁ、なんだか嫌な予感がする。頭の隅でそんなことを考えながら重たい足を動かした。


* * *


痛い。じんじんする。
もうやだ今度の休日は熱だそうかな。

手のひらにできた擦り傷を見ながら本気でそんなことを考えていると、頭上からマジでか‥・と銀時の信じられないという声とため息が聞こえた。

「まさか、こんなにも乗れないなんて‥・」

「一回練習したっきり乗ってねぇんだからしょうがねぇだろ」

「いや、でもそれにしたっていくらなんでも‥・」

これは酷い。
飲み込まれた言葉を悟って情けない、と項垂れるしかなかった。

とりあえずどれだけ乗れるのか見ようということで銀時の自転車を借りて近くの公園でまたがった。
もちろんサドルは一番下まで下げてもらっていつでも足が着くような高さにしてもらって。
さぁどうぞ、と銀時が出発を促され、見よう見まねで出発した。
はずだった。
地面から足を離した瞬間ぐらりと視界がぶれる。
倒れる、と思った時にはガシャンッと自転車が地面にぶつかる音がしていた。

「いだっ!」

ついでに受身を取れなかった俺自身も地面とこんにちはする羽目になる。
咄嗟に手をついたためかじんじんと手のひらが痛んだ。
それを見ていた銀時はあんぐりと口を開けている。
それが悔しくて起き上がって自転車を起こす。
ハッと意識を取り戻した銀時が慌てて近づいてきた。

「は、はは‥・たまたまバランス崩しただけだよな?大丈夫か?」

「‥・‥・たまたまなんかじゃ、ねぇんだよ‥・」

「‥・え、」

だからいったじゃないか。
全く乗れねぇんだって。

グッと唇を噛み締めて頬を膨らませれば「か、わ‥・」と呟いた銀時に抱きしめられた。
とりあえず自転車になれるところから始めようということになって、銀時に後ろから支えてもらって”ペダルを漕ぐ”ということからはじめた。
が、たったそれだけのことなのに転ける。最初は順調に滑り出したように思えても転ける。うしろから銀時が支えているはずなのに何故だか転ける。
もう壊滅状態だ。
これがため息の原因だった。

「なぁ、もうお前誰かの後ろ乗っけてもらえよ。自転車ぶっ壊れたとかいってさ」

「‥・やだ」

「やだって可愛いなおい。じゃなくて!!!この状態でやだっていう!?最初は一、二時間ぐらいすれば乗れるだろうって思ってたのに全く乗れねぇじゃん!しかもなんでか絶対コケるじゃん!あ、もしかしてそんだけ銀さんに心配してほしか、」

「黙れクソ天パ。だからお前に頼んだんだろうが!壊滅状態だなんて自分が一番分かってんだよ!」

いつの間にか擦り傷だらけになった手を握りしめてついでに銀時も睨みつけておく。
けれどいくら表で意地を張っていても、内心はやっぱり乗れねぇのかな。なんてマイナスな考えが渦巻いていく。
諦めたほうがいいのかな、と本気で考え始めたところで「まぁひとまず休憩すっか」と銀時が自転車を端に避けて近くにあったベンチに座った。そしてその隣をぽんぽんと叩かれる。座れということだろう。始まる前よりも重たい足取りでそちらへ向かって指定された場所へと腰を下ろした。

「多分さ、俺が思うにお前力入りすぎなんだよ」

「‥・おう」

「だからもっと肩の力抜いてさ、そんで近いとこじゃなくてまっすぐ前向いてこいでみ?」

「でも‥・」

「でも?」

「思うように力抜けねぇんだ‥・」

なんとなく自分でもそんな気はしていた。
いつもより肩の位置が高くなっているような気がするし、現にそろそろ腕とか足とか筋肉が悲鳴をあげ始めてるし。どれだけ力を抜こうとしてみてもいつの間にかガチガチになっていてバランスもハンドルも取れなくて転ぶのだ。
やっぱり乗れないのだろうか。
なんだか情けなくて、悔しくてじんわりと目頭が熱くなった。

「あー、あー、もう、泣くなって」

「な、いて、ない」

「泣いてるだろうが。んー、力を抜く方法、ねぇ‥・」

ガシガシと頭をかいてあー、とベンチに背中を預けて首を反らせる。そうやってしばらく唸っている隣でブラブラとあしを浮かせて遊んでいるとあ!と突然声を上げて勢いよく起き上がった。

「力抜く方法、あったぜ!」

「な、なんだよ?」

妙に生き生きとしだした銀時になんだか嫌な予感がする。
どもりながらも聞いてみれば、ニィッと口角が上げられた。

「こういうこと」

「ひぁ‥・ッ!?」

言うが否や突然腰を撫でられる。
油断していただけに盛大に声に出してしまいカァッと顔に熱が集まった。

「ば、ばっかじゃねぇの!?てかここ外!!」

「でも自転車乗れるようになりたいんでしょ?」

「だからって!こんなことしなくても!」

「じゃあ他に力抜く方法、ある?」

「それは‥・ッ」

じっと赤い目に見つめられてうっと言葉に詰まる。
確かに出てこない。
いやもっとゆっくり考えれば出てくるのかもしれないが今のこの状況じゃ出てくるわけもない。

「ほらー、他にないでしょ?じゃ、いただきまーす」

「ってそれが本音じゃねぇか!‥・ァッ!」

「ほらほら、力抜いてー」

「や、てめっ、さわん‥・んッ!ひぁっ」




結局散々いいように触られて互いに我慢ができなくなってその日は二人で二ケツして帰ることになった。
もちろん銀時の運転で。

「俺、一生乗れねぇまんまなのかな‥・」

荷台で揺られながらポツリとこぼした呟きは誰にも聞き取られることなく風に紛れて消えた。



-END-




まっきい様リクエストありがとうございました!
実は自転車に乗れない土方がみんなに内緒で銀時に特訓してもらう。
擦り傷作って悔しくて涙目になりながらも頑張るトシくん、というなんとも素敵なリクを・・・!私は何割活かせたのか・・・(遠い目)
しかも勝手に銀さんは究極に独占欲強いっていう設定付け加えてしまいましたしね。
それでも後悔はしていない←

多分乗れなくても乗れるまで練習しまくって最終的には乗れるように坂田が何とかしてくれると思います。はい。

こんなやつですけれどこれからもよろしくお願いしまします!

※まっきい様のみお持ち帰り可






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