薄穂様/銀土前提幕土 | ナノ

10000hit企画

revival





本当は離したくなかった。
できることならばこの命が散るその瞬間まで、その手を握っていたかった。
けれど、その小さな願いは届かずに終わりを告げる。






revival






「お前らが動かねぇなら俺が動く」
「万事屋!それは‥・!」
「あいつが好き勝手されてるってのに黙って指くわえて見てろっていうのか!?」

ダンッと畳が鈍い音をあげる。
今にも人を射殺しそうなほどに鋭い目をした銀時に、近藤はぐっと詰まった。
土方が真選組から姿を消したのは一月前。
探すなと一言だけ書かれた置き手紙を見つけたのは新たな資料を持ってきた山崎だった。

「どうして早く動かねぇんだよ!お前らはあいつがどうなってもいいってのか!」
「そんなわけないだろう!!俺たちだって一刻も早く助け出したいさ!しかしだな!」
「あいつが守ったモンを無駄にするわけにはいかねぇ、ってことか」

低く唸るように言えば、再び近藤は黙った。
銀時だってわかっているのだ。
土方が何を守るためにひとりでに姿を消したのか。そして、組が派手に動けば土方の命も危ういかもしれないということも。
だからといって組と何も関係のない銀時が黙っている必要性は全くない。
大切な恋人が失踪していて、そのうえ今この瞬間も官僚たちに好き勝手にされているのだ。
腐れ縁の桂が仕入れた情報だからガセではないだろう。それにどうやら真選組の方もこの情報は手に入れているらしく、銀時が好き勝手されているといっても驚かなかった。
おそらく、身体と引き換えに組の存続あたりを出されたのだろう。
どこまでも卑怯な奴等だと殺気がむくりむくりと身を擡げた。

「じゃあお前らは手出しすんな」
「…おい万事屋、まさか変なこと考えてるんじゃねぇだろうな」
「変なこと?別に考えてねぇよそんなん。…ただ、ちぃとお姫様を取り戻しに行くだけだ」

それだけ言うと銀時は口を固く引き結んで立ち上がった。
近藤はまだ何か言いたそうにその姿を見上げたが、意思の硬い銀時をしばらく見つめ、そして小さく息を吐き出した。

「俺たちはトシが守ってくれたもんを捨てる訳にはいかねぇ。だが、トシを見放すのは、もっとやっちゃいけねぇことだ。」

なぁ総悟。
そう近藤が言うのと同時にスっと静かに襖が開かれた。
そこにはいつものように人を馬鹿にしたような、けれどどこか異様な空気を纏った沖田が立っていて、クッと銀時は喉を鳴らした。

「そうこなくっちゃな」
「旦那ァ、ヘマしないでくだせェよ。あれでもうちの大切な副長なんで」
「わぁってるよ。俺がんなヘマすっかっての。…必ず、助け出してみせるぜ」

ギュッと、固く拳を握り締める。
必ずこの手に戻してみせる。
例えどんなことをしてでも、だ。

最後に一度だけ沖田、近藤と目を合わせて静かに真選組を後にした。

――――明日は新月だ。











どれほど時がたっただろうか。
今は昼なのか、夜なのか。
自分は生きているのか死んでいるのか。
もうそれすらもわからなかった。

窓も証明もない、ただひたすらに闇が広がっているだけの空間。
まるで何かが上にのしかかっているような体の重たさ。
カラカラに乾いた喉。
空腹だと鳴らすことをやめた腹。

こんなにボロボロになってまで、自分は生きている意味があるのだろうか。
そんなことを最近考えるようになった。

大人しくついて来なければ真選組を弾圧する。そう脅されてしまえば、土方はもうなにも言い返すことができなかった。
前々からじっとりと絡みつくような視線が寄せられていたことは知っていた。
けれどうまくかわしてあえて気づかない振りをしていたのだ。
そしてとうとう満足しきれなくなったその官僚は権力を振りかざして土方に詰め寄った。

薬を使われたのか詰め寄られたあとの記憶はなく、気づけば暗闇の中に横たえられていた。それ以来ある時間になればぞろぞろと人が入ってきて、仄暗い蝋燭の明かりだけを頼りに自分の周りに集まってくる。
そして好き勝手に蹂躙するのだ。
初めは主犯であるその官僚だけだった。
けれど日を追うごとにひとり、ふたりと人数が増えていき、行為もどんどんエスカレートしていった。
どれだけ痛いと叫んでも、やめてくれと懇願しても聞き入れてもらえず、ただ欲を吐き出すために回されて揺さぶられる。
ひどい時にはその場にいる全員が満足するまで気を飛ばすことすら許されなかった。

(も…う、いや…だ、)

誰か助けてくれ。


―――ぎん、と…き…


知らぬうちに涙が頬を伝っていた。
怖い、辛い、息苦しい。
組みのためならば耐えられると思っていた。
どれほどひどいことをされようと、近藤さんの作り上げたあの場所を守れるのならば。
この身一つくらい、安いものだと思った。
けれど、実際に訪れた日々は想像していたよりももっと残酷で惨めなもので。
初めは強く持っていた自尊心やプライドもことごとく踏みにじられて、既に限界に近かった。

永遠に抜け出すことのできない闇の淵にたたされ、絶望が底から早く来いと腕を絡め取る。
いっそのこと、身を投げてしまった方が楽なのか。
そう考えるとき、いつも何かが後ろから力強く腕を引いた。
暗くて何かはわからないけれど、ほんのりと温かく鈍色に輝いているそれがやめろと引き止める。
そしてゆっくりおやすみ、と聞きなれた低音が鼓膜を揺するのだ。
その光を見たときだけはなぜかぐっすりと眠ることが出来た。
穏やかで、懐かしい感覚。
まるで慰めるように脳裏に次々に蘇ってくる愛しい人と過ごした輝かしい日々。

「ぎ、…とき…」

会いたい。

どうかもう一度だけ、その腕に抱きしめて欲しい。

なんて愚かな夢か。
けれどこの愚かな夢がまだ自分を奮い立たせるのを知っている。
もう一度だけ。
その思いを胸に、深い呼吸を繰り返してゆっくりと意識を手放した。
これからおとずれるであろう苦痛を乗り切るために。






「ふぅん、ここが悪玉の巣ってわけか」

暗闇に紛れじっと屋敷全体を見下ろす。
この屋敷の中のどこかに土方がいる。まぁその位置も大体把握してある。
後はいかに速やかに助け出すかが勝負どころといったところか。

「夜叉を怒らせた罪、たっぷり味あわせてやらぁ…」

ゆるりと赤い目の奥に薄暗い火が揺れる。
ザァアっと風が走り去り木々が戦き、やがてまた静寂がおとずれた時には既にそこにあった人影はなくなっていた。









「ひぃッ…い!あぁ…っぐ、んッ、ァ…!」
「ちゃんと締めろ。全然気持ち良くないではないか」

本当に使えない、と頬を打たれる。
するとそれに反応して締め付けがきつくなったのを気に入ったのか再び逆の頬を打たれた。

「は、はぁっ…ッ!ひぐッ、は…ッんんッ」
「クク…そうだ、やればできるじゃないか」

褒美をやらんとなぁ。
いやらしく耳元でねっとりと言葉を吐き出し、ガツンと最奥を突きあげる。
既に幾度となく絶頂を味あわされた体は僅かに強くなった刺激だけであっけなく達した。
その時の締め付けで男もまたイったようで体内に生暖かさが広がる。

ぐっと吐き気がこみ上げた。
けれどそれを必死に押さえ込んで浅い息を繰り返す。
ズルリと男のものが抜けさり、どろりと腹の中に収まりきらなかったものが尻穴から伝った。

気持ち悪い、気持ち悪い…っ

今すぐに掻き出したくてたまらない。
けれどその願いは叶うことはないだろう。

「今日は親しい友を数人連れてきておるからのぅ。そ奴らももてなしてやれ。そうそう、ちゃんと穴は締めるのだぞ。ガバガバで全くもって気持ち良くないからのぉ」

耳障りな高笑いを響かせて男はニヤニヤと気持ち悪く笑う。
それを横目に見て舌を打ちそうになるのをかろうじてこらえた。
じわりと目元に涙が浮かんでくる。
泣けば相手を楽しませるだけだとわかっているのに、止めることができなかった。

外で待っている男と変わるのか今まで土方を好きにしていた男が傍に置いていた蝋燭を手に持ち扉があるのであろう方向へと歩いて行く。
その姿を睨みつけるようにじっと視線だけで追いかけた。
いつか殺してやる。いつか、必ず。

扉を開けて男が外へ足を踏み出す。
それと同時にひゅっと何か空を切る音がして、しばらくしてからゴロンと鈍い音がした。男が持っていた蝋燭が消え室内にまた闇が満ちる。
そしてすぐにドサりと重たいものが転がる音がした。

それに驚いてほとんど動かない体を少しだけ持ち上げる。
一体何が起こっているのか、目を凝らしてみるけれどなにも見えない。
じっと身を固めて室内の気配を探る。
賊にでも入られたのだろうか。
ならば自分もこの場で始末されるのか。
剣を持たない自分に、対抗する手立ては何もない。
スッスッと人が歩いてくる気配に緊張は高まる一方だった。

知らぬ間に震えだした自分の身を固く抱きしめる。

できることならもう一度会いたかった。
あの大きな手を握り締めたかった。
好きだ、と。もう一度囁いて欲しかった。

「ぎ…ん、とき…っ」

ギュッと目を瞑って呟いた瞬間、返ってくるはずのない声が返された。

「はぁい、愛しの銀さんが助けに来ましたよっと」

その声にパッと目を開けて顔を上げる。
するといつの間に灯されたのか、蝋燭を片手に持った銀時がふんわりと笑っていた。

「ぎ…ん…?」
「遅くなってごめんね。もう大丈夫だよ。俺と一緒に帰ろう?」
「ほん、とに…?ぎんとき、か…?」

恋焦がれるあまりに見せる幻なんかではなく、本当に…?
確かめるようにゆるゆると手を伸ばす。
銀時はふっと笑みを浮かべてその手を取り、自分の頬に押し当てた。
そこからじわりと熱が伝わる。

―――あぁ、本物の銀時、だ

「後のことは心配いらねぇよ。…帰ろう、十四郎」
「か…え、る…ッ」
「そう、良い子。ゆっくりおやすみ。」

慈しむように髪を梳かれ、額に唇が落とされる。
すると糸が切れたように意識が遠のいた。
ぎんとき。
もう一度だけ呟いて、完全に意識を深淵に沈めた。










遠くで人の話声が聞こえる。
そのどちらも聞きなれた懐かしいものばかりで、それに引き寄せられるように意識を浮上させた。

「…ッ」

突然差し込んできた光の強さに身じろぐ。
するとタイミングよく障子を開けて中に入ってきた人物がそれを見つけて土方のそばへと駆け寄った。

「十四郎…!気づいたか…!?」
「…‥、ぁ…」
「あ、喉渇いてんだろ。水飲ませてやるから」

よっ、と掛け声がかけられて体が起こされる。
幾分か軽くなったような気がするけれど、まだ一人で身を起こすのは無理そうだとぼんやりと考えた。
体を起こしてくれた人物がさりげなく体で影を作ってくれているために、徐々に視界がクリアになっていく。
差し出された水をゆっくりと流し込んでなんとかコップ半分ほど飲んだところで、もういいと首を振った。

「大丈夫か?」
「ん‥・」

小さく顎を引いて頷く。
それからゆっくりと顔を上向かせる。
至近距離にあるその人の輪郭に思い腕を持ち上げてそっと手を沿わせた。

「ぎん、とき‥・ぎんとき、ぎんとき‥・っ」
「なぁに、十四郎」

ボロボロと涙腺が壊れたように涙が頬を伝い落ちる。
確かめるように何度も何度も名前を呼べばその度に銀時は返事を返した。
耳、目、鼻と手のひらを這わせる十四郎の好きなようにさせ、艶を取り戻した黒髪を梳く。
そして最後に唇を指先がなぞったところで、その手を捕まえてゆっくりと唇を塞いだ。
優しく、壊れ物を扱うような柔らかいキス。
一度顔を離し至近距離で見つめ合うと、今度は火が付いたような激しい口づけが交わされた。互いがここにあるのだと存在を確認するような、もう離さないというようなキスに必死に縋り付く。

「んんッ、ぁ‥・っはん‥・ッふ‥・」
「お前が無事で、本当によかった‥・ッ」

今にも泣き出しそうな声に、胸が締め付けられた。
会いたかったのは、自分だけじゃなかった。
額をこすりつけるように銀時の肩口に顔を埋める。
ギュッと白い着流しを握り締めれば、その上からあれだけ焦がれた手のひらが包み込んだ。

「今度からはこんなこと、するんじゃねぇぞ。お前はもっとほかの誰かを頼っていいんだよ。いや、頼らなきゃなんねぇんだ。」
「‥・ご、めん‥・」
「それは俺に言う言葉じゃねぇだろ?」
「う、ん‥・」
「分かればいいんだよ。‥・‥・ったく、ほんと、心配したんだからな。‥・会いたかった」
「お、れも‥・」

会いたかった。
会いたくて会いたくて、いつもお前の面影を抱きしめて、引き上げてくれる銀色を頼りに自分を支えていた。
あの時は鈍色だったけれど、今はちゃんと輝いている。
綺麗に輝いて、俺の手を引いている。

「会いたかった‥・銀時‥」

この手を、もう離しはしない。
口に出しては言えないけれど、ギュッと抱きついて鼻をすすった。

おそらく、これからぐちぐちと多くの奴らに小言を言われるのだろう。
今抱きしめてくれている銀時だってねちねちと何か言ってくるに違いない。
そんな日常もとても幸せなものだ。

けれど、今はもう少しだけ、このまま。

身にしみるような温もりを感じていよう。




-END-












あとがき

なんとか書き上げましたぁあああ!!!
遅くなってごめんね_(:3 」∠)_
そしてエロなしごめんよぉおおお!
薄穂さんのみお持ち帰り可です。





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