アオイ様/銀土(土土) | ナノ

10000hit企画

弟カップルの若い恋


十四郎がブラコンなのは嫌と言うほど知ってる。
生まれた時からずっと一緒だと言い切れるほど近い距離にいるのだから知らない方がおかしい。

俺だって兄貴である銀八のことは好きだし、調子にのるから言いたくねぇけど尊敬だってしてる。

十四郎に至ってはほとんどトシさんが親同然で育てたから俺よりも兄に対する依存性度が高くてもしょうがないと思う。

でも、だ。

「兄貴ぃー」
「あ?なんだ」

仮にも恋人である俺が家に遊びに来てるってのに。

「勉強教えて」
「はぁ?んなの、銀八に聞きゃあいいだろ?」

俺のことはほっぽって兄貴にべったり、なんて。

「やだ。だって兄貴のが分かりやすいし」
「俺だって忙しいんだっての。あ、そうだ。銀時に教えてもらえよ」

「や・だ!!あいつに教わったら見返りに何を求められるか分かったもんじゃねぇもん!」

いくらなんでも酷すぎるだろうがぁぁあああ!!!

「わがまま言うな。ほら、せっかく銀時が来てくれてんだから。」

ぎゅうぎゅうと抱きついて離れない十四郎を離しながらトシさんは困ったように眉尻を下げていう。

そうだそうだ!!トシさんもっと言ってやって!!
もっと俺に構ってやれって言ってやって!!

ジト目で二人のやり取りを見つつ内心でトシさんのことを必死に応援する。

トシさんが大好きな十四郎のことだから、素直に言うことを聞くだろう(それもそれでなんだか空しい気がするがこの際目を瞑ることにしよう)と思っていたのだが、次に発せられた十四郎の言葉でギリギリ保たれていた俺の怒りゲージが爆発した。

「うー…俺、銀よりも、にぃにと一緒がいいー…」

何気なく言われた一言に頭のどこかが音をたてて切れたようだった。

「帰る。」

「え」

すっと立ち上がって広げていた教材を適当に纏めていく。

その様子をトシさんはやれやれといった表情で、十四郎はきょとんとして俺が帰ると言い出した訳がわからないと言った顔で見ていた。

「トシさん、せっかくのお休みなのにお邪魔してすみませんでした。」

「あぁ、いや、こっちこそ気ぃつかわせて悪ぃな。」

「いえ。じゃ」

「え?ちょ、銀っ」

十四郎には目もくれずトシさんにだけ挨拶してさっさと玄関へと向かう。

そんな俺に十四郎はどうしたらいいのか分からないようでおろおろとしながらも玄関まで追っかけてきた。
それても俺は知らんぷりを通す。

さすがに今回は俺も頭にきてんだからな。

「なぁ銀時、何怒ってんだよ?」
「別に」

分からないのなら困ればいいのだ。

「別にってことねぇだろ!何勝手にキレてんだよ」
「勝手に…だぁ?」

俺の腕をつかんで言う十四郎の言葉に完全にキレた。

「お前は俺と過ごしたくなかったってことか」
「はぁ…?んなこと誰も言ってねぇだろ?」
「いーや、言ったね。今言った。」
「あーもう…」

めんどくさい。

声には出さなかったが、はっきりと十四郎はそう口にした。

俺はお前にとって必要でなかったということか。
それだけの存在だったということか。

いつもは流すことのできる些細な言動や思考も、今回ばかりは流すことができなかった。

「……十四郎」
「んだよ…」
いつもより低い声音に小さく肩が跳ねる。
「しばらく、距離を置こう」
「え…」
「じゃ」

俺の放った言葉に大きく目を見張り、いつにない様子に動揺を浮かべていた。
それでも見ないふりをして家を出る。
最後まで十四郎の顔を見ることなく、ドアを閉めた。










『距離を置こう』

銀時に言われた言葉がぐるぐると頭の中を回る。
それは、もう終わりだということなのか。

「い、や…」

今日だって、いつも通りの言い合いで済むと思ってたんだ。
いつも喧嘩しても銀時がもうやめようって言ってくれて。
素直になれない俺の代わりに好きだよって。

「ぎ、ん‥・っ」
「追いかけなくていいのか?」

どうしよう、ひとりで顔を青くしているところに後ろから柔らかい声がかけられて、泣きそうになりながら振り返った。
いつの間に来たのかすぐ近くに兄ちゃんがいて、しょうがないなという風に苦笑している。

「早く行かないと手遅れになるぞ」
「でも‥・っ」
「お前はそれでいいのか?銀時と別れてもいいのか?」
「いやだ!」
「だったら追いかけろ」
「‥・‥・でも、なんで怒ってんのか分かんねぇんだ‥・」
「はぁ‥・?」

俯いて、もごもごと言えば兄ちゃんは呆れたような声をあげた。
はぁ?って言われても分かんねぇもんはわかんねぇんだよ。
なんで悪いか分かんねぇのに謝るなんて絶対に嫌だ。
これがいつも頑固だって言われる所以だってわかっていても、嫌なものは嫌なのだから仕方ない。
そうひとり頭の中でぶつくさと文句をたれていれば正真正銘の阿呆だな、と言われムッとして顔を上げた。

「アホって言った方がアホなんだぞ!」
「お前、開き直ってる場合か?」
「兄ちゃんが悪いっ」
「あー、はいはい。今はそれでいい。とりあえず、早く追いかけろ」
「だからっ」
「なんで怒ってるかわかんねぇ、ってか。」

しょうがない、と小さく息を吐き出して、そうだな‥・と人差し指を立てた。

「お前が銀時の家に遊びに行ってるってことにしよう」
「‥・うん」
「で、今日みたいに二人で勉強してる。」
「うん」
「久しぶりに二人で家デートで十四郎は銀時と一緒に居られると思って浮かれてたとしよう」
「ん」
「なのに銀八銀八っていってお前の相手しなかったらお前はどうだ。全くお前のこと無視してたらどんな気持ちだ?」

久しぶりで、一緒にいられるって期待してたら。
それなのに、ほったらかしにされたら。

「‥・‥・、やだ」
「そうだろ?腹が立つだろ?せっかく俺が来てんのにって」

そういうことだよ。
そう兄ちゃんが言い終わる前に家を飛び出していた。

思い返せば銀時が何を言っても兄ちゃんにかまって欲しくておざなりにばかりしていた。
銀時ならわかってくれるって勝手に思い込んで甘えていたんだ。
誰だって、恋人が他の男(兄ちゃんだけど)のことばかり考えていれば面白くないだろう。挙句の果てに、俺は銀時よりも兄ちゃんと一緒がいいとかなんとか言っちまった気がするし。
これにはさすがに堪忍袋の緒が切れたんだ。

どうしよう、どうしようと考えながらひたすらに足を動かす。

銀時は帰ると言った。
でも銀時の性格上ムカムカしたまま家に帰るなんてことはしないだろう。
きっとぶらぶらとあたりを歩きながら頭を冷やそうとするはずだ。
それに銀時が出て行ってからそんなに時間は経っていない。
俺たちは思考が似ているんだ。直感的に足を動かせばすぐに追いつく。
そう結論づけてからは何も考えずに走った。

するとその考えが功をなしたようで、ぶらぶらと歩く銀時を見つけてぎゅっと胸を掴まれたような感じがした。

「銀時‥・っ」

名前を呼んで、その腕を掴む。
するとどうやら俺の存在に気づいてなかったようで振り返り姿を見留めた途端、目を丸くした。

「と、十四郎…?」
「ばっかじゃねぇのっ?」

腕を掴む力を強めてキッと睨み付ける。銀時はムッとして何か言おうとしたがそれに被せるようにして怒鳴った。

「勝手に距離を置こうとか言ってんじゃねぇよ!」
「な…っ、俺だって言いたくなかったっての!でもお前はトシさんのとこばっか行くし、俺の存在無視だし!」
「それはお前だから!」
「俺だったら放って置いてもいいってのか!」
「違う!そうじゃなくて!俺は、お前なら…ッ」

そこまで言ってグッと言葉を飲み込んだ。

俺は、お前ならわかってくれていると勝手に思い込んでたんだ。
いつも素直になれない俺の代わりに銀時が読み当ててくれるから。
だから、お前には言わなくてもわかってもらえるってたかを括ってた。

それがお前を傷つけるなんて知りもしないで。

「俺は、…ッ」
「…もういいよ。ごめん、俺が悪かった」

鼻の奥がツンとし始めたとき、はぁと銀時は息を吐き出して俺の頭をかき混ぜた。
そしてそのまま抱きしめられる。
あれほど強く握っていた手は、いつの間にか縋るように沿わされているだけになっていた。

「ほんとは、わかってた。トシさんと会えるの久しぶりで十四郎がテンション上がってること」

どれほどトシさんのことを慕ってるか知ってるから、いつも通り一緒に居させてやろうって。ちょっとくらいぞんざいに扱われたって仕方ないかって。

「でもさー、いくら分かってるっていってもよー、やっぱ目の前で俺以外の奴がいいって言われるとなぁ。俺もそこまで大人なわけじゃねぇし」
「ご、めん…」
「いいよ。まぁ今回はこうやって十四郎が来てくれたし?俺は満足。それに」
「…それに?」
「十四郎が俺のことめちゃくちゃ信頼してくれてるってのもわかったしね!」
「な…!?」

ニシシ、といたずらっ子のように笑う銀時にカァッと顔に熱が集まる。

「ば、かじゃねぇの!!誰がいつそんなこと言ったんだよ!」
「えー?じゃあさっき俺ならって泣きかけたのはどこのどいつ」
「わー!わー!泣いてねぇ!」

ジタバタと必死に体を動かして銀時から距離を取ろうとするががっちりホールドされていて動けない。
離せ、と恥ずかしさで泣きそうになりながらも睨み上げるとその先で銀時はとても嬉しそうに笑っていて。

不覚にもどきりと心臓が高鳴ってしまった。
ここが道路のど真ん中だということも忘れてゆっくりと降りてきたキスを享受する。

舌を絡め合って追いかけられ追いかけて。
少し距離をあけた時には既に二人共出来上がっていて。

「とりあえず、うち来る…?」
「…うん」

互いに切羽詰った表情のまま駆け出すように銀時の家へと向かう。

さっきまでもう終わりかもしれないと、あんなにぎゅうぎゅうと胸が締め付けられていたはずなのに。
今はこんなにも幸せに満ちている。

これからはちゃんと自分の気持ちを伝えよう。
……多分。

そう思った土方十四郎17歳の春。



-END-

おまけ


「うぃーす。晩飯買ってきた」
「ん、悪いな」

ソファに腰掛けているトシに一直線に向かって、振り返っておかえりというその唇に自分のそれを重ねる。
それからガサガサとスーパーの袋を漁り、ローテーブルに買ってきた二人分の夕食を並べながら銀八はトシの横に座った。

「なになに、今日うちの弟と十四郎が喧嘩したんだって?」
「あぁ。まぁ九割うちのが悪いけどな」
「へぇ?でも喧嘩して出て行ったのを追いかけるなんて、若いなー」
「全くだ。俺にはもうお前を追いかける体力は残ってねぇな」
「え、なに、俺が怒って出て行く設定なの?そこは普通お前がもう知らねぇ!とかなんとか言って出ていくのを俺が慌てて引き止めに行くんじゃねぇの?いやまぁそんなことさせないけどね?」
「当たり前だろうが。もし愛想なんか尽かそうもんなら…」
「やめて!なんか想像でも怖くなるから!!」

耳を塞いで縁起でもないと首を振る。
そんな銀八にトシは喉を鳴らした。

「まぁ今夜はせいぜい仲直り記念とやらで励むだろうから、ちょっとばかし家貸してやってくれや」
「だろうねぇ。…俺たちも励んじゃう?」
「馬鹿かテメェは。俺は明日も仕事だっての。てかお前もだろうが」
「じゃあ明日に響かないようにするから」
「はぁ…ったく…」

しょうがない。
苦笑しながらもどこか嬉しそうなトシに、銀八もまた小さく笑みを返した。



-END-








あとがき

なんとか書き上げました!
お待たせしてしまい申し訳ありません(・・;)

リクエスト頂いたときはほんと、飛び上がりたいぐらい嬉しかったです!
だって!あんなに自分の中で萌えた土+土ネタだったので!!
需要があったのかと思うとものすごく嬉しくてひとりニヤついてしましたw

今回は仲の良すぎる土土兄弟に弟銀時が嫉妬、喧嘩、仲直り…ということでしたが…
あれ、なんか、土土の仲の良さでてない…かな?←

私の中で弟カップルはやんちゃで小さい頃から一緒にいるのでお互いのことを理解しきっててそれに甘えてる、って感じなので、あんまり派手な喧嘩にはできませんでした…

でも楽しかったです!
素敵なリクエストありがとうございました!

これからも匡兎ともども黒に熔けるをよろしくお願いいたします!

※アオイ様のみお持ち帰り可
※返品、書き直し承りますので気軽にお申し付け下さい。




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