一代目拍手


銀土/シリアス




「バカだ」

「お前は大馬鹿だ」

真っ白な病室で横たわるその人物に、聞こえていないなんてお構いなしに小さくつぶやいて同じように真っ白な布団に顔を突っ伏した。



ぼろぼろになった姿で会いに来たかと思えば、小さな『ごめん』と大きな『大好き』を勝手に押しつけて俺の目の前でぶっ倒れた。

目の前でまるでスローモーションかの様に崩れ落ちて行く姿を茫然と眺めていることしかできなくて、あぁ、太陽に反射した銀色が綺麗だ、だなんて。

ドサリと鈍い音がするのを耳にするまで見惚れてしまっていた。

ハッと我に返って慌てて病院に連れて行った。それこそ職権乱用だと罵られてもおかしくないんじゃないかってほど公道の真ん中を突っ切って。

肋骨の打撲と、無数の切り傷。それも小さいものばかりじゃなくて、深くえぐられたような傷からその辺で引っかけたような傷まで様々だ。倒れた原因は出血のし過ぎによる貧血と過度の過労だそうだ。

過労だなんて柄にもない名前のモンで倒れてんじゃねぇよ、となんとなく筋違いな八つ当たりをしてみてもいつもの飄々とした茶化し声は返ってこなかった。


確かに会いたいと思った。

全く連絡の取れないクソ天パに苛立ちがピークになっていたし、もしかして愛想を尽かされたのではと不安にもなっていた。

それでも。

こんな状態で来てほしくはなかったと我儘を零す。

お前が笑っていなけりゃ意味がないんだ。お前が俺の横に立っていてくれなきゃ意味がねぇンだ。お前が、お前が。

「は…」

何時の間にかこんなにも依存していたのだと自分に嘲笑が漏れる。結局、強い芯を持ったコイツを傘にきて、虚勢を張っていただけだったのだ。だって、ほら。
お前が居ないだけで、俺はこんなにも、弱い。

「なんで、泣いてるの」

「なっ…」

ふわりと包まれて引き上げられた頬に驚いて目を見開く。そこには確かに先ほどまで目を閉じていたはずの恋人が目を覚ましていて、勝手に溢れだしていた涙を長い指先ですくっているところだった。

「ねぇ、なんで泣いてんの」

「泣いてなんかねぇよっ」

「嘘ばっか吐くんじゃねぇよ、コノヤロー」

ぐぃ、と腕を引かれて身体が前のめりに倒れこむ。ポスンと幾分か自分より厚い胸板に自分の頭が押さえつけられて、ゆっくりとあやすように髪を梳かれた。

「銀さんが居なくて寂しかった?」

「………なわけあるか」

「あ、今考えただろ」

「るせっ」

見透かされてることが恥ずかしくてぎゅっと右手で髪を梳く左手をつねってやった。ぎゃ、と声をあげて右手を離した銀時に少しむっとして(なかなかの自分勝手だが気に入らなかったのだから仕方ない)胸板とぶつかっていた鼻先を少し上げて、自然と上目づかいになる形でジィ、と赤い瞳を見つめる。

「なに、どした」

再度腕を伸ばしてきて撫でつけられる感触に、今度は何をするでもなく目を細めた。

「おかえり」

きょとん、として何か珍しいものでも見るかのような目でこちらを凝視したかと思えばフッと笑って俺の頬を撫でた。

「ただいま」





(寂しかった、なんていわないけど)





(精一杯の"待ってた"をあなたに)







修正:12/02/19


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