黒目マヨ
今、何してる?
銀時と別々の大学を受験して、アイツと頻繁に会えなくなった。
いや、会えないどころか銀時が他県の大学を受けた時点で顔さえ見れなくなったのだが。
まぁ、所謂お付き合いというものをしている俺たちは毎日メールや電話で他愛もない話をして、ぎこちないながらにも愛を囁きあったりもして。
大学の方も慣れだして、生活にゆとりがでてくれば、今まではさして強く感じなかった寂しさが一気に押し寄せるようになった。
女々しくなったものだと、小さく息を吐き出す。
ゴロリとベッドに寝転がってふわふわと揺れる銀髪を思いうかべれば、まるでそれを見計らったかのように携帯が鳴った。
ディスプレイを見なくても分かるほど聞きなれてしまった着信メロディ。
一つ深呼吸をしてから通話ボタンを押した。
『とーしろー』
相変わらずやる気の無さそうに名前を呼ぶ声に無意識のうちに頬が緩む。
「なんだよ。」
知らずに柔らかくなってしまった声音に擽ったさを感じつつ、胸の中にあった感情が少しだけ増した気がした。
『早くトシの顔がみたいーっ』
「バカ……おれ、も…」
会いたいよ。
言葉には出せなかったけれど、きっと聡い銀時ならば、汲み取ってくれたことだろう。
その証拠に、電話ごしからぶつぶつと銀時が文句を垂れるのが聞こえていた。
このままだとずっと言われ続けそうだと苦笑を漏らして話を変えることにした。
「そっちはどんな感じなんだ?」
『え?あー、そうだなー。大分慣れた。』
「そっか」
『うん。そっちは?』
「俺も。大分なれて余裕が出てきたって感じだ」
『そっか。トシなら大学行ってもモテるんだろうな…。ダメだかんな!!俺以外の野郎に目移りしちゃダメだかんな!?』
「目移りなんかするか!!てかお前は俺をなんだと思ってるんだ!」
『お前は無意識のうちに色気垂れ流してんだよ!!銀さん、トシが襲われないか心配で心配で…!』
「ねぇよ!」
ぎゃあきゃあと騒いで、お互い気づいたら息まで上がってて、よくケンカした高校時代を思い出した。
ほんわりと温かくなる反面、やはり寂しさが募る。
そうこうしている間にもう寝るか、みたいな雰囲気になって、素直に言えない俺はぶっきらぼうに相槌をうつしか出来なかった。
『またな。明日も電話すっから』
「あぁ…」
待って、もうちょっとだけ。
言えない言葉が喉元でもぞもぞと動く。
『おやすみ、十四郎』
「お、や…すみ…」
待って、待って。
焦燥感だけが胸を覆い尽くして急かされる。
今、言わなければ。
なぜかそう思って、考えが纏まらないうちに感情のまま声をだした。
「ぎん、ぎん…!待って…っ」
『……うん?』
「………好き、だ……っなぁ、寂しい。寂しいよ、ぎん…っ」
『トシ…?』
「ぎん、とき…っ大好き…っ」
『十四郎…っ』
携帯を耳に押し当てて、何回も紡ぐ。その度に銀時が頷いて言葉を返してくれて、気がついた時には涙で顔がぐちゃぐちゃだった。
「ヒック…ぅ、ぎぃ…んっ」
『十四郎…。』
会いたい、寂しい。
何度も日頃言えない思いを吐き出して、しゃくりあげる。
恥ずかしいとか、情けないとか、女々しいだとか。
頭の片隅にはあるのに、行動は比例してくれなかった。
いっとき、俺はずっと泣いてた。その度に、銀時がごめん、だとか俺もって返してくれて、なんでコイツはこんなに優しいんだろうって思うと、また泣けた。
「ふぅ……、ひ、く…」
『ねぇ、トシ。』
「な…に」
『トシくんが泣いてるのに、不謹慎だとは思うけどさ。俺、すっげー嬉しい』
「え…?」
『だってさ、トシくん、いっつも自分の気持ち隠しちゃうじゃん?だから、こうして寂しいって、会いたいって言ってくれて、ものすっごく嬉しい』
「…っ、ほ…んと……っ?うざく、ねぇ…っ?」
こんな、女みたいに寂しいってすがって泣く俺は、気持ち悪くない?
『好きで好きでしょうがねぇ奴が、泣くほど自分に会いたがってくれてるってわかって、ウザいなんか思うわけねぇだろ?』
可愛いなぁ、もう。
銀時はいつものあの溶けてしまいそうなテノールで囁いた。
すき、すき、なぁ銀時?
こんな質だから、本当は県外の大学に行かないでくれだとか、置いていかないでくれって、素直に言えなかったけど。
本当は誰よりも近くにいてほしかったんだよ。
こんな、電波を通さなけりゃお前と繋がれねぇのなんて、ごめんなんだ。
こうやって、俺を慰めて愛を囁いてくれている間でも、俺はお前の温もりを探してる。
なぁ、お前は俺のいない遠いところで、今、何してる?
-END-