今年こそは。そう意気込んでアパートまで来たのはいいが、あとチャイムを押すだけとなったところでやはり例年通り尻込みしてしまった。

今俺がいるのは恋人である銀時が住むアパートで、本人にはここに来ることを知らせていない。

知らせておけば、おそらく俺の足音がした時点でドアを開けて寒かっただろって笑いながら家にあげてくれるはずだ。

けれど、俺は自分からアイツのことを訪ねて、まぁその、驚かせてやりたいのだ。

いつも銀時にサプライズをしてもらってばかりだから、たまには俺だって、と思ったわけだ。

これを思い付いた去年のバレンタインから何度かイベントがあるときに試みるのだが、未だにそれは成し遂げられていない。

付き合い初めてからなんやかんやで二年が経つが、こういったアプローチ的なものを自分からしたことなんてほとんどないに等しい。

だから余計に緊張して、あと一歩と言うところで失敗に至るわけだ。

(あー、もう…!!早く押せよ俺!!こんなのちゃちゃっと済ませちまえばいいことだろうがっ)

うじうじしている自分自身が情けなくて、でも思いきれなくて泣きそうだった。

今日は銀時の誕生日だ。

大学生になって誕生日もくそもあるかと思うが誰だって祝われるのは嬉しいはず、だ。

(プレゼントも持ったし、ケーキも持った)

再度確認して、もう何度目かわからない深呼吸を繰り返す。

(大丈夫、大丈夫)

呪文のように繰り返して、そして目を瞑ってえいっとチャイムをならした。

けれどしばらく待っても返事は来ない。

(あ、れ…?)

今日はバイトの日だったか、いやいやそれはないだろう。だって例年何があろうとアイツはこの日は休みをとっている。
だとしたら出かけてしまったのか。
もう一度、と再度チャイムをならす。
やはり返事はない。

(帰るか…)

心なしか自分の影が肩を落としているような気がするが、まぁ気のせいだろう。

踵を返そうと一歩後ろへと足を引いたとき、中からカタン、と物音がした。

(…居留守…?)

外に出るのめんどくさいからもういいやと思って、とかなんとか、アイツなら言いかねない。

(もう一回だけ…)

次押して出てこなかったら諦めて帰ろう。
例え居留守であろうがなかろうが。
恐る恐るボタンに手をかけてゆっくりと押し込む。
ジッとしばらく待っていると中からドスドスと荒い足音が聞こえた。
あ、やっぱり居やがったな、と目の前の扉を睨み付けた瞬間グレーのそれが目の前に迫っていてあ、と思った時には遅かった。

ゴンッ

「何回もしつこいよお宅!!居ねぇんだからやめとけよっ…って、ゴンッ?」

「〜っ」

ズキズキと額が痛む。
あ、やばい目回ってる。

「えっちょ、十四郎!?もしかして頭打った!?」

あの音からしたらごっさ強く打ったよね!?てかなんでお前ここにってか早く冷やさねぇと!とかなんとか。
遠くなる意識の中で聞いた。

あ、ケーキ…なんとかなるだろ。

***

「ズキズキする」

「ごめんって。まさか十四郎があんな扉の近くにいるとは思わなかったんだよ」

ほんっとうにごめん、と顔の前で両手を合わせてひたすらに謝る銀時をみて、別に、と口元をまごつかせた。

違うんだ、いや、違うくないけど。軽い脳震盪起こすくらい痛かったけど、そうじゃなくて。

銀時を宥めながらあの、と意識を手放す前にちらりと過ったもののありかを聞くことにした。

「箱、落ちてなかったか?」

「箱?」

「あぁ、白い、四角の…」

誕生日ケーキ、なんて恥ずかしくて言えなくて、あの、とかその、とか言葉を濁す。

「あ、もしかして十四郎が手に持ってたやつ?」
「それだ!」

ぽん、と手を打ってそれなら冷蔵庫に入れといたよ、と言ったのを聞いて胸を撫で下ろした。

「ぎん、」
「なぁに」
「……箱、開けてくれ」
「え、いいの?」

コクりと首肯すればじゃあ取ってくる、と立ち上がってキッチンへと消えていく。
今さらながらにドキドキと心臓が鼓動を高め始めて、今からなら逃げれば間に合うだろうかなんて考え始める 。

そうだ逃げよう。
そう思って腰を浮かせたときタイミングがいいのか悪いのか「持ってきたよー」と間延びした声が聞こえた。

「えーと、開けていいんだよな?」
「…あぁ、」

「じゃあ開けますよーっと………、ケーキ?」
がさがさ、と音が聞こえて露になった中身に銀時はびっくりしたような声をあげる。
恥ずかしさから顔をあげることができなくてずっと白いシーツを眺めていた。

「これって、もしかして」
「た、たまたま!たまたま通りかかったからっ」
「…そっか」

カァッと頬が火照って熱い。
絶対嘘だってバレてる。
二度とこんなことしねぇ…!
そう固く心に誓ったとき、ふわりと甘い匂いが香った。

「ありがとー、すっげぇ嬉しい」

えへへ、と耳元で恥ずかしそうに笑う気配がしてことさら顔が熱くなる。
でもそれ以上に喜んでもらえたことが嬉しくて。



※※※

ここまで書いて力尽きました。
これ多分クリスマスネタにしようとして間に合わなくてじゃあバレンタインネタにしようとしてやっぱり間に合わなくてじゃあ坂田の誕生日でいいじゃんってなったけどそれでも間にわなくての繰り返しで手付かずなのできっとこれはこのまま手付かずなんだろうなって思いました。(作文)




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