いつも通りの飄々とした微笑みを浮かべる総司の隣には、私の楽しみにしてた栗きんとんの残骸。

「それ、私の栗きんとんだよね?」
「栗きんとん?何のこと?」

「そこの赤い包み紙には、何が入っていましたか総司さん」
「答えなきゃ駄目?」

シラを切り通そうとする総司。
総司と口論になると、はぐらかされて終わるか、人間から発されるとは思えない鬼畜の極みのような言葉の数々に心をメッタ打ちにされて終わるかが常である。

しかし今日は愛しき栗きんとんが口論の火種。
栗きんとん好きの誇りにかけて、負けるわけにはいかない戦なのだ。


「駄目も何もないでしょ!私の栗きんとん食べたでしょって聞いてるの!」
「いやぁ、美味しいねあれ。こんなの知ってるなんてさすが千陽。」

「でしょ?今度一緒に行……っていやいやいや。」
「あれ、さすがに単細胞な千陽でもはぐらかされなかったな。」

大抵はこうやって、さりげなく私の機嫌が上がるような話題にすり替え、それに私を引きずり込み、談笑して終わる、という感じだ。
しかし!栗きんとんが絡んでいるときの私は、おちおち総司に流されるような小娘とは違うぜよ!

「あのねぇ!私この栗きんとん楽しみにしてたの!勝手に食べないでよ!」
「ふーん、じゃあこないだ僕の金平糖こっそり食べたのは何処の阿呆かな?」

「…!き、気付いてた…?」
「当たり前じゃない。すぐに千陽が犯人だって分かったよ。」

忘れてた話題を出されてぎくっとする。
そうでした、総司の金平糖、こっそり食べました。

「で、でも!たかが金平糖15粒じゃない!栗きんとんと一緒にしないでよ!」
「ねぇ金平糖のこと馬鹿にしないでくれない?あんなに美味しいもの他には無いよ。」

「いや金平糖より栗きんとんの方が美味しいね。なんてったって栗だし?」
「何言ってるの金平糖の方が上等だよ。栗きんとんなんて喉が渇くじゃない。」

「人の栗きんとん食べといてそんなこと言わないでよ。」
「君こそ金平糖に土下座して謝りなよ。」

「総司だって栗きんとんに謝るべきだと思いますけどねー」
「嫌だよ。何?栗きんとんに謝るって。馬鹿じゃないの。食べ物に謝ってどうするのさ。」

「は?金平糖に土下座しろって言ったの誰よ!」
「さあ?知らない。」

「いや総司だから…!だいたいさ、金平糖なんて砂糖の塊じゃん。なんであんなのがいいの?」
「言っておくけどね、栗きんとんは栗の塊だよ。」

「さ、砂糖の塊と栗の塊一緒にしないでよ!」
「ねぇ千陽うるさい。」

「うっ…!?誰の所為でうるさいと思ってんの!?」
「さあ、知らない。」

「そればっかだな総司は!だいたいさ…………っ、」
「…千陽?」

くらり、と頭が揺れた。
目を固くつぶって、倒れそうになるのを堪える。

「どうしたの?」
「……あ、いや、なんか頭が」

「ふーん?頭?」

ひた、と総司の手がおでこに当てられる。思った以上に冷たくて、肩が強張った。

「うわ、めちゃくちゃ熱いよ。熱あるんじゃないの、これ」
「…熱?」

「よく見れば顔も熱っぽいし。僕と喧嘩してる場合じゃないでしょ」
「でもそんなにだるくないし…」

「目も潤んでる。完全に熱です。千陽は昔から、自分の体調に疎いからね」
「総司に言われたくない」

「はいはい、いいから部屋帰るよ」

部屋の方向へと体を回れ右させられて、背中を軽く叩かれる。
熱なんて大袈裟なものでもないと思うけど、悪化して長引いても困るので大人しく自室に戻ることにした。

後ろから、「栗きんとんの残骸片付けたら、水桶持っていってあげるから、とりあえず寝てなよ」という声が聞こえた。やっぱり栗きんとん食べてんじゃん。




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