朝、目を覚まして、新選組屯所の天井が見えたことに、私は落胆した。

見えたのが家の天井で、部屋を出れば父様もいて、あの夜からの出来事が全部夢だったら良かったのに。

嘆いても仕方がない、目の前にある出来ることをやっていくしかない…そう言い聞かせて、重い体を蒲団から起こす。

障子を開けると、いつもより冷たい風が入ってきた。
今日はいつもより肌寒いらしい。

支度をしていると、襖の向こうから声が聞こえた。

「千鶴、起きてる?」
「あ、うん!起きてます」

開けるよ、という言葉と同時に入ってきたのは、千陽ちゃんだった。
千陽ちゃんは、私が新選組に来たときから、色々と世話をしてくれている人だ。

新選組で唯一の女の子で、幹部の1人。

厄介者の私にも、嫌な顔ひとつせずに面倒を見てくれるし、色々なことを教えてくれる。
明るくてさっぱりした性格で、良い意味で男らしい女の子。
幹部の皆さんも、皆が抱き合っている仲間意識とは別に、例えば妹に向けるような情があるように見えた。

「おはよ」
「おはよう、千陽ちゃん」

「部屋入っても良い?」
「うん。どうぞ」

千陽ちゃんは部屋に入るなり、私の格好を見て微妙な表情を浮かべた。

「まだ男装なんだね」
「あ、うん。まだちょっと慣れない、かな」

「千鶴可愛いのに。もったいないなぁ」
「あはは、ありがとう。でも土方さんが色々考えて決定したことだし、文句は言えないよ」

「うーん、だって、女ってばれない為って言ったら、私も女だし」
「私と千陽ちゃんじゃ、立場が違うじゃない。それに千陽ちゃんは自分の身を守る力もあるし」

私の言葉を聞いて、千陽ちゃんはまたも微妙な顔をした。
私的にも男装はやっぱり慣れないし、出来ることならば女の格好をしたいところだ。
千陽ちゃんの気遣いはとっても有難かったけれど、山南さんも言ってた様に、何の力も持たない女が男所帯に転がり込めば、秩序を乱しかねない出来事が起こる可能性がある。そんなことは私だって避けたいのだ。

その時、部屋の障子が勢い良く開けられた。

「探したぞ、雪村君!それに希和も居るではないか!」

現れたのは、お盆を片手に持った近藤さんだった。

「ちょっとー、近藤さん。女の子の部屋なんだから、いきなり開けたら駄目ですよ」
「女の子の部屋、とは…?もしや、ここが君の部屋なのか?」

「……はい、一応」

私が肯定すると、分かりやすく「しまった!」とでも言いたそうな顔をして、視線をさまよわせた。

「あはは!近藤さん、焦りすぎですよ!落ち着いてください」
「そ、そうですよ。見られて困るものとか、ありませんし、大丈夫ですから…」

「…いや、女子の部屋に無断で立ち入るとは、失礼なことをした。トシの小姓と言うからには、トシの隣部屋だと思っていたのだが…」

ああ、近藤さんは私を土方さんの小姓だと思っているのか。
色々事情はあるのだろうから、何も余計なことは言わないことにして、改めて近藤さんを部屋に招き入れた。

「………あの、ええと、何のお構いもできませんが、どうぞ」

部屋に入った近藤さんが持ってきたお盆には、金平糖が乗せてあって、一緒に食べよう、と誘ってくれた。

「ありがとう、ございます…」
「千陽も、甘いものは好きだろう?食べなさい」

「わーい!いただきます!」

退屈に感じることは多いけれど、色んな人が私を気に掛けてくれて、少し幸せを感じた朝だった。






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