斎藤先輩に頼まれて、書類を事務室に取りに行ったのだけれど、たくさんの書類に埋もれていて中々見つからなかったので遅くなってしまった。

斎藤先輩は教室で他の書類をまとめていて、もしかしたら既に終わってしまっているんじゃないかと少し走って廊下を進む。

既に生徒は帰っているか、部活をしているかで、校内には吹奏楽部の音と、グラウンドから聞こえる声だけが響いていた。

「斎藤せんぱ………い、」

教室に駆け込むと、机を枕にして寝ている斎藤先輩がいた。
そういえば、廊下は走るなと言っているだろう、という斎藤先輩のお馴染みの注意が聞こえなかったかも知れない。

斎藤先輩が居眠りなんて意外だとも思ったけれど、風紀委員長で、剣道部では沖田先輩と並ぶエースで、考えてみれば斎藤先輩は寝る暇もないくらい忙しいんだろう。

起こさないようにして、そっと机に書類を置く。

斎藤先輩が起きるまで書類をまとめるのを手伝おうと思って、斎藤先輩の横にある書類に手を伸ばす。
ふ、と横を見ると、斎藤先輩の寝顔が予想以上に近くにあって、乗り出していた体が止まってしまった。

「…っ、」

ただでさえ端正な顔が夕陽に照らされていて、男の人とは思えない程綺麗だ。

しばらく呼吸も忘れて見入っていると、斎藤先輩の長い睫毛が揺れた。

「………ん、」
「…!」

切れ長の眼が、ぼんやりと開かれる。

「ごっ、ごめんなさい…!起こしましたか?」
「……………ミョウジ、」

「は、はい……わっ」

書類に伸ばしていた手は、斎藤先輩の手に捕まってしまった。
いきなりの出来事に、ぶわっと体中が熱くなった。

「もう少し…、このまま、」
「さ、斎藤先輩…?寝ぼけてますか?」

「…寝ぼけてなど…な、い…」

そう言ってまた寝息を立て始める斎藤先輩。

手から伝わる体温は不思議なくらいに心地良くて、せめて斎藤先輩が起きてしまうまで、ずっとこのままでいたいと思ってしまうには十分だ。

書類を進めることも出来ず、手を離すことも出来ず、夕陽の差し込む教室で、どうしようもなく顔を真っ赤に染めていることしか出来なかった。

起きたときに、見たこともないくらい慌てふためく斎藤先輩の姿など、全く想像も出来ずに。




赤に染まる教室と

(…!!す、すまん!こ、これはだな…)
(だ、大丈夫ですから…)



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