私は沖田総司が嫌いだ。
いつも人を小馬鹿にしたような態度も、皮肉を含んだような笑顔も。
一度、"こいつのことが嫌いだ"と思ってしまうと、不思議とその人間の全てが嫌になってしまうもので。
例えば沖田でいうなら、何をさしても出来てしまう天才肌なところとか、いたずらっ子で我儘なくせに皆から憎まれないところとか、高い身長とか、綺麗な色をした瞳とか、私にちょっかいをかけてくる大きい手だって、大嫌いだ。
ついでに、ちょっかいをかけられた後に体温を上げる私の体も、真っ赤に染まる私の顔も、大っ嫌いだ。
そういえば沖田は、私のお気に入りの屋上に、よく入り浸る。それも嫌い。
「…なんでいるの」
「やあ、ナマエちゃん。おはよう」
私の名前を呼ぶ声も嫌いだ。
そして大っ嫌いな沖田は、今日も私の特等席に居座っていた。
「今日は遅かったね」
「…別に。私がいつ来ようが勝手じゃん」
「うわ、冷たいなぁ」
「…」
「今日機嫌悪い?」
「機嫌悪いんじゃなくて、沖田見てるといらいらしてくんの」
「女の子にそんなこと言われたの、初めてだよ」
「…どうでもいいし」
「…ナマエちゃんは笑ってたらすごく可愛いのに」
「は?」
くん、と沖田に手を引っ張られて、沖田の横に座る形になる。
私の手を掴んでるのと反対の手が、私の頬に触れた。
「……ち、ちょっと!何、」
体温を上げる私の体。顔だってきっと真っ赤だ。
「ナマエちゃんってさ、僕のこと嫌いだよね」
「嫌い!嫌いだからっ、早く離して」
「僕のこと嫌いだって分かると、余計に離せなくなるなぁ」
「離してってば…!」
「ていうかナマエちゃん、本当に僕のこと嫌いなの?」
「は?ど、ういう…」
「嫌いな男に触られて、真っ赤になる子なんて、いる?」
この、目。
全てを見透かしたような目が、いちばん嫌い。
その目に捕らえられて動かなくなった脳を、一生懸命奮い立たせる。
嫌い、嫌い、嫌い。
そうだ、私はこの男が嫌い。
嫌いなのに、なんで鼓動が速くなる?顔が熱くなる?嫌いな奴に抱く嫌悪感だって、なぜか微塵も湧いてこない。
懸命に働く頭が出した答えは、大嫌いとは正反対の言葉だった。
「ねぇ、ナマエちゃん」
「……な、に」
「僕はナマエちゃんのこと、ずっと好きだったんだけど」
「……………は?」
「聞こえなかった?僕はずっと、」
「……き、聞こえ、てる」
また頭が真っ白になった。
沖田が私を好き…、私も、嫌いだと思ってたけど、沖田のことが好き………。
訳が分からなくて、どうしようもなく恥ずかしくて、胸が詰まって息が出来ない。
私の負けだ。もう、どうにでもなってしまえばいい。
「ナマエちゃんは?」
「………好、き。私も、沖田がすき」
「うん、よくできました」
そして私は、大好きな沖田の腕に包み込まれた。
大嫌いだったこいつの隣も、意外と悪くないかもしれない。
ゲームオーバーの結末
odai#chen11