羅刹となった者が、普通の死に方など出来ないことは承知していた。
いつかの兵士が灰となって跡形もなく消えたのを見て、動揺こそしたものの、覚悟も決まった筈だった。
しかし、今目の前で灰となりかけているのは自分の最愛の人であると言う事実が、覚悟した筈の心に深々と突き刺さる。
「あはは、一より私の方が先に、寿命使いきっちゃったかぁ…」
「………笑っている場合では、無いだろう」
「だって、もう会えないんだよ。一の記憶にいる最後の私は、笑顔がいいじゃない」
右手の指先から、肘、肩、と無くなっていく彼女の体。
まだ残されている左手を、しっかりと俺の両手で包み込む。彼女の少し高めの体温を忘れないように、強く。
「死ぬ覚悟はね、新選組に着いていくって決めたときに出来てたの」
「…ああ」
「でも、一と離れなくないな」
「…俺も羅刹だ。きっとすぐに追い付くだろう」
「はは、そんなこと言わないで。一には残りもしっかり生きてもらわないと」
「残りの寿命を無駄にする気は無いから安心しろ」
鬼と対峙した時に死にかけた俺達は、二人で一緒に羅刹となったのだ。ナマエが寿命を使い果たしたなら、俺の寿命にもさほど差は無い筈。
そうしている間にも、刻一刻と迫ってくる別れ。
もうすぐ、彼女は消えて無くなる。
「声を、聞かせてくれ、ナマエ」
「一、大好き。愛してる」
「…俺もお前の事を、愛している」
「うん。ありがとう、一」
「ナマエ」
「……はじめ、」
そして最後の言葉を残して、彼女は世界から消えた。
(覚えていて、私が存在していたことを)
odai*10mm