08.



トントン

部屋にノックの音が響いた。

「はーい」

返事を返すと、顔を出したのは山崎。

「晩飯だ」
「あれ、もうそんな時間?」

「お前が晩飯を忘れるとは珍しいな」
「あー、確かに。…今日の当番って誰?」

「………沖田」
「…期待はしないでおこうかな」

読んでいた漫画を置いて、部屋を出る。
いつも晩ご飯の時間にはだいたいリビングに降りてるのだけれど、今日は平助に借りた漫画が意外にも面白くて読み耽ってしまった。

「わ、みんな揃ってる。ごめんなさい!」
「おせーよ千陽!」

「平助ニダ、すまんヘヨ」
「韓流!?」

「あははは!千陽なにそれ、すっごいつまんない!」
「ええ?つまんないとか言って笑ってるじゃん総司」

私が席に着いて、リビングのテーブルには、全員揃ったことになる。

「皆揃ったな?それじゃ、食べるとするか」
『いただきまーす!』

近藤さんの合図で、皆が手を合わせて挨拶をする。

晩ご飯は皆が揃ってから食べる、というのは決まりがある訳でも無く、暗黙の了解みたいに、気が付いたらそうなっていた。
やっぱり食事は大人数で食べるのが一番美味しい、皆がそんな風に思ったからだと思う。

「辛!麻婆豆腐、辛!」
「そう?僕は全然いけるけど」

「うわ、今日の当番って総司かよ!そりゃ辛い筈だな…」
「平助の味覚がお子様なんじゃないの?」

「俺はこれ位が丁度良い」
「俺もいけるな」

「ほら、一くんも山崎も丁度良いって。土方さんはどうですか?」
「総司にしちゃあ加減した方じゃねぇか?普通に美味いぜ」

「あれ、それなりに辛いのいけるんですね。お酒飲めないのに」
「…どういう意味だコラ」

「えー、私めっちゃ辛いけど」
「この寮にはお子様が2人いるんだね」

寮には食事当番というものがあって、当番の日には晩ご飯を作ることになっている。

今日の当番は総司だ。
総司は、料理は下手ではないんだけれど、味付けがとにかくすごい。
今日の麻婆豆腐なんかはまだ皆も食べれているけど、前に麻婆豆腐を作った時は、辛すぎて誰も手を付けられなかった。
何を作っても味が濃いし、辛い。全ての調味料を目分量(しかもかなりオーバー)で入れているに違いない。

カレーなんかを作らすと、溶け切らないルーが出てきたりする。

料理も稽古も、加減を知らない男である。

「そういえば新ぱっつあんがね、金入ったから焼き肉行こうって言ってた」
「は?新ぱっつあん?万年貧乏なのに?」

「なんか競馬とパチンコどっちもボロ勝ちしたって」
「新八さんが勝つなんて珍しいね」

「これから大暴落が始まるんだろうな」
「うわ、はじめくん怖いこと言わないでよ」

「いや、はじめくんの言う通りだと思うな」
「そうそう、新ぱっつあんが金なんか持ち続けられる訳ないって!」

「じゃあ大暴落が始まる前に、焼き肉行こう!」
「そうだな!にしても麻婆豆腐辛ぇ」

「だから平助と千陽がお子様なんだってば」
「…ちょっと水欲しい水!」

私が辛さに耐えかねて、コップを片手に席を立つと、平助が俺のもーとコップを差し出して来た。

「ん。他に水欲しい人いる?」
「あー、千陽、こっち頼む」

「あれ、土方さん美味しいって言って……」

コップを差し出す土方さんの隣には、汗だくで顔を真っ赤にしながら口元を押さえている近藤さん。
どうやら水が欲しいのは、土方さんではなく近藤さんらしい。しかも辛がり方が尋常じゃない。

「…近藤さん、そんなに辛いんですか?」
「いっいや、そういう訳では……げほっ、ごほ!」

ああ、辛いんだな、と納得させるには十分だった。

「………総司、お子様ひとり追加」




08.大人4名、子供3名
(…辛いの相当駄目なんですね)
(いや、そういう訳では……げほ!)







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