「ぐ……」 状況は、最悪だ。ただでさえ実力差が大きいのに、試合でネックだった吹雪が機能していない。そのことが周り全体に影響を与えて、全員が戸惑っている。正直心も身体もキツいけれど、私は負ける訳にはいかなかった。 沙雨ちゃんや美桜ちゃんや、美冬ちゃんの恋を一方的に、だけどずっと見ていた。好きな人の挙動に舞い上がったり、頬を染めたり、涙を流したり。そういった恋する女の子は本当に可愛いから、とても楽しかった。でもその反面言い表せない程に羨ましかった。ヒロトのことが好きと気付いた時、私の隣にはもうあいつが居なかったから。もしかすると私は彼女達のように一喜一憂することもなく、気付いた時にはヒロトと他の人の幸せを祝うことになるかもしれないなあ、ぼんやりと思っていた。もしそうなれば、きっとあの日の約束なんて一生守られないだろうから。それを避けることができるなら、一分一秒でも早くヒロトに会いたいと常に私の中を闊歩する気持ちがいつしか切実な願いへと姿を変えた。 でもやっと叶った筈のそれは、随分と歪な形になっていたみたいだ。 「いずれ迎えに行くよ」 地面に伏して呻く私の横を通り過ぎる瞬間、確かにヒロトは私にそう囁いた。もう、今の私にとっては宣戦布告のサイレンにしかなり得ない。ここで勝つ。勝って食い止めて、目を覚まさせる。 もう何度目か分からないあいつのシュートが飛んでいく。誰もが息を呑んだ。留まることも知らずに溢れる悲しみが、衝動となって私を突き動かす。 走れ。あいつのシュートを、私が止めないと。私の手でヒロトを取り戻す。必ず止めてやる。 「っ、らぁっっっ!!」 激しい衝撃と共に霞んでしまいそうになる意識を必死で繋ぎ止めた。「昴!」すぐ後ろで、円堂が叫ぶ。シュートの威力を私の蹴りで相殺させる算段だったけど、どうも甘く見ていたみたい。悔しい。足にかかる負担全て、心に直接のしかかっていく。ヒロト、ヒロト。 「無駄だよ」 なんとかボールの軌道を反らして、気が付けば身体が宙を舞っていた。時間が止まったみたいに景色はゆっくりと流れる。うっすら笑顔を浮かべるあいつの姿を目に焼き付けながら、ゴールポストに強く叩き付けられた。ベンチから上がる悲鳴、仲間の声、背中を走り回る電撃のような痛み。口の中に広がった鉄の味を思い切り飲み込んだ。 「言ったろう、無駄だって。大丈夫、俺は約束を果たしたいんだ。だから待っていてね」 「大丈夫」記憶の奥で微笑むヒロトがかき消される。 「……約束の意味、履き違えてんじゃないわよ……」 |