作品 | ナノ


人生って残酷。子供の頃からずっとそう思い続けていた。一番幸せな時に大切なものを奪っていく。一番大事な時に全て壊していく。一番辛い時に、追い討ちをかける。
そういう事ばっかり平等に、歳も年齢も関係なく襲いかかるし、本当に残酷であると思う。私の周りにもそんな運命に幾度となく涙を流した人達が沢山いるからこそよくわかる。よくわかるけど、意識なんてしないもんだ。所謂、忘れた頃にやってくるというやつ。



他人事のような言い方だけれど、私は鈍感でも天然でもないのでとうの昔に気付いていた。リュウジを筆頭に治くんやマキ達が私達の敵として立ちはだかり始めた中で、踏みにじるように、胸の奥で一つ一つその予感が確信を帯びていくことが苦痛で苦痛で仕方なかった。私だけじゃなく、瞳子お姉ちゃんだってそんな表情をしていて、それがまた新たな重みになって身動きがとれそうにもなくなっていく。

明莉のことだってそうだ。試合にこそ出てはいなかったけれど、私が見たこともないすました顔で淡々と嘘を吐く姿を見ていられる筈がなかった。体、弱いんじゃないの。目で訴えても答えてくれなかった。
みんなみんな私の知らない人になってしまったみたいでたまらなく悲しかったけれど、それでも私は、自分の目でちゃんと最後まで確かめるまでは諦めるつもりはなかった。私は私の見たものだけを信じる。憶測なんかに惑わされるもんか、そう言い聞かせた最後の望み。

だからこそ漫遊寺で、砂埃が舞う中視界の端に捉えた赤色は私の息を詰まらせた。そこにある物全てが時を止めて、鼓動だけがうるさく鳴り響くのを感じながら頭の中を思考が渦巻く。どうしようもない希望の光がそこらじゅうに溢れていく。気が付けば居なくなっていたけれども、確かに、あれは。
ふざけた格好もしていなかった。何一つ変わらない姿であいつは私たちを見下ろしていた。気のせいなんかじゃない、この私が、あいつを見間違えるなんて世界がひっくり返ってもありえない。


「……ヒロト……」

声に出して胸が締めつけられた。きゅんなんてもんじゃない、ぎゅん、だ。こんな感覚は久しぶりだ。心臓が最高速で波打つ音はどんどん増していく。



"ヒロトには多分何らかの理由があった。だからエイリア学園側じゃないんだわ。ならばもう一度、会って話をしなきゃ"


私が焦がれていたのは、いつだって私を守ってくれた王子様のようなヒロトだったから。その時の私はきっと、そう強く思うことで自分自身を支えたかったんだろう。





もう一度、声を大にして言いたい。人生って残酷だ。


着実に芽生えていた希望を打ち壊された時、福岡の空は今にも泣き出しそうだった。まさかこうも簡単に突き落とされるなんて思ってもいなかったわよ、馬鹿。

グランと名乗ってそいつは私を一瞥した。大きな音を立てて私の中にある、大切にしていた何かが崩れさった。ずっとずっと欲しかったビー玉のような綺麗なエメラルドグリーンの瞳にも、鮮やかな赤色にも、もう何にも感じられない。


言葉を発することもままならない私を放っておいて、事態は進んでいった。どうやら私はあいつらのチームと試合をしないといけないらしい。あーあもう、玲名までいる。本当にみんな、どうしちゃったの。誰に問いかけたって、返事は返っちゃ来ない。

試合開始のホイッスルが随分と遠くで聞こえた。






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