作品 | ナノ


最初に俺が昴にあげたプレゼントは、日付そのものだった。その次の年は、園の庭で見つけた四つ葉のクローバー。何年か彼女の誕生日を祝った後、俺達は離ればなれになって。必死にもがき合ってやっと取り戻した時には、彼女の14才の誕生日はもう過ぎていた。そうして今年、再会してから初めての5月7日がやってくる。

今年のその日は平日だった。でも5月7日という日付が、本当に彼女が生まれた日ではないからこそ、当日に祝ってあげたいと思うのは俺の譲れないこだわりだ。
放課後電車を乗り継いで、雷門中へと向かう。この少しだけ長い道のりも、昴のためならば何の苦にもならないんだ。募る気持ちのせいでとてつもなくゆっくりと時間が流れるような錯覚に陥るのは、勘弁してほしいのだけれど。

思えば本当に、ちゃんとした誕生日プレゼントを昴にあげるのは初めてかもしれない。長い間俺達はそれぞれ別々を向いていていたから。どんなに手足を動かしてもすれ違うばかりで触れあえないまま、ちゃんと向かい合って目だって合わせているのに何故か腑に落ちないまま。
それでもこうして、また手に入れられた。それはもうはじめからこうなることが決まっていたかのような自然さで、最後には彼女が俺の元へ舞い戻ってきた。奇跡のようでそうではないこの再会を、俺は一生忘れない。もう絶対に離さないと決めたんだ。
感傷に浸る俺を車内アナウンスが揺り起こした。5月の暖かい風が頬を撫でて、目に映る新鮮な景色に胸が高鳴る。もうすぐ、会える。



しばらく待って校門から出てきた彼女は両手にいくつも紙袋を持っていて、俺を見つけると眉ひとつ動かさないままに首を傾げた。確信めいた声色で「あらヒロト、どうしたの?」なんて美しく微笑んでみせる彼女からもう既に沢山の人から祝福されていることが伺えて、少しだけ嫉妬してしまう。

「どうしたの?なんて、本当はわかってるくせに」

悔しくてこちらも意地悪に笑ったら、昴はいっそう笑みを深くした。それだけで俺には、周りがぱあっと明るくなったかのように感じられてしまうんだ。ああ、好きだよ、昴。

ぶら下げられた紙袋を何個か持ってあげたら、「あら、ありがとう。流石ね」と頬を撫でられた。いつもより機嫌のいい彼女のその手を掴んだまま、ポケットをまさぐる。


「誕生日おめでとう、昴。暫くお祝いしてあげられなくてごめんね」


プレゼントを受け取った彼女は暫く包みを見つめたままだったので、開けてごらんと促せばその言葉を待っていたと綺麗な指先でリボンをほどき始めた。どんな顔をするだろう。きっと博識な彼女だから、俺の真意にも気付くかな。

「ネックレス、と、ブレスレット……」

「どうかな?昴に似合うと思って」

「ええ、とってもかわいくて、きっと私にしか似合わないわ。ありがとう、でも……」

もの言いたげに投げ掛けられる視線にとぼけていたら、形の良い眉がきゅっと寄せられた。

ネックレスにブレスレットには、首輪に手錠という意味がある。
もう絶対に君を手放さない、失いはしない。離れる時の悲しみも君がいない時の寂しさも知っているから、ずっと俺の傍にいて。束縛は嫌と目で訴えられたけれど、俺はもう昴がいない世界なんて考えられない。そういう気持ちを込めて、俺はこれを選んだ。


「ふうん、上等じゃない」

ふいに風が舞い上がって、水色と黄色のコントラストが効いたその髪を揺らしていった。それすらも味方につけたみたいに、景色のなかで綺麗な笑顔を見せる昴に、周りを歩いていた誰もが気を引かれたように思う。まるで、絵に描いたような光景。その中でゆっくりと俺のプレゼントを身につけて、もう一度口角を上げた。

「今度こそ誓うわ、ずっと一緒よ。首輪も手錠もなくたってどこにも行きやしないけれどね」

いつだって恐ろしいまでに綺麗できらきらと輝いている昴は、きっと俺の知らない間も沢山の言葉を貰ってきたのだろう。「好き」と言うことなんて誰にでも出来る、だからこそ俺はずっと昴の隣に居たい。今日それを、再び実感できた。


「ねえ、昴、大好き」

「知ってるわ。私も大好き」

「うん、知ってる。生まれてきてくれてありがとう」

「ええ、生まれた日をくれてありがとう」

人目も気にせずに抱きしめた彼女は思っていたよりずっと細くて、けれども暖かい。二人でどういたしましてなんて笑い合いながら目を閉じた。これからもずっと、こうして昴の誕生日が祝えますように。呟くと、当たり前じゃないと俺の腕の中で可愛らしく昴は言った。






2012/05/07

スランプ×まさかのヒロト視点+終わらない課題−文才=このザマ

Happy Birthday 昴!末永く爆発しろ!




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