作品 | ナノ




あの後、結局雷門は負けてしまった。倒れていく仲間達をベンチから励ましながら両手を握りしめたのはまだ記憶に新しい。



「昴ちゃん、医務室へ……」

「……お願い、ここに居させて欲しいの」

やむを得ず交代となった私に、美桜ちゃんが掛け寄った。ああ、そんな顔しないで。土の付いた手じゃ頭も撫でられない。

「でも手当てを……」

「大丈夫よ。大方打撲って所でしょう。あと少ししたらまた入るわ」

「六連さん。駄目よ、手当てを受けなさい」

「おねっ……監督!私は平気です」

「それでも最低限の応急処置はするべきよ、あなたならその必要性がわかるでしょう」

お姉ちゃんは、私の想いも痛みも全部全部分かっているのだろう。六連さん、私をそうやって素っ気なく呼ぶ声はいつでも悲しそうだった。


「昴ちゃん、私からもお願い。手当てを受けて」

「……じゃあ、ここでして貰えるかしら」

「え、でも背中だよ……?男子とかもいるし、」

「気にしないわ。ここで手当てして。あとでちゃんと診てもらうから、この試合だけは」

「昴ちゃん……」

「監督も、お願いします」

「……ピッチに立つことは認めないわ。あとは好きにしなさい」

「……わかりました」



私の我が儘を聞き入れてくれた美桜ちゃんの優しさ。自分だって辛い癖に、ひた隠して「監督」で居続けるお姉ちゃんの気遣い。みんな、私のせいで無理をさせていた。
女の子だからと気を使って手当てしてくれているのが考えなくても伝わってくる。ありがとう、ごめんね、本当にごめんね。でも、こればっかりは譲れないのよ。背中に響く鈍い痛みを受け流しながら、終わりに近づいていく試合にもどかしくなった。たぶんきっと、勝てない。まだ立ち向かう円堂達には悪いけれど、これは私の諦めなんかじゃない。この点差で残り時間ももう少ない今、そもそも追いつくことすら時間的に不可能なのだ。

そして手当てが終わった丁度その頃に、事件は起こった。悲痛な叫び声と共にボールを追いかける吹雪に、さっきの私が重なる。強い光で目が眩んで、視界がやっと順応してきた頃にはもう、全てが遅かった。






「……思い出したらまた胸糞悪くなってきたわ」

キャラバンの上で空を見ながら独りごちる。折角南国である沖縄に訪れているというのに心は一向に沈んだまま、夜空に浮かぶ雲も星を隠しきっていた。
普通の打撲だけど数日は安全に。医者からそう告げられた背中は、鏡で見て初めて青く大きな痣になっていることに気がついた。跡が残ったらどうしてくれるのよなんて苛立ちを覚えながら、試合後の数日間で巡らせた、断片的な思考をまとめ上げていく。

「いずれ迎えに行く」……つまりは私を、仲間に引き入れようという魂胆でしょうね。どうも瞳子お姉ちゃんの振る舞いからして豪炎寺もそういった類いの圧力をかけられていたらしいし。そうだとしたら私も隔離されるかもしれないわね。もう大分時間も立っているし、今晩かそこらに部下レベルの奴らが来るという可能性もなきにしもあらず……っていうかあり得るからシャレになんないわ。

渇いた喉を潤して、そうしたらさっさと戻ろう。一人でいるのは危険だ。



園宅みおみおお借りしましたすみませんでした





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