「沖田さぁん!」
なつみは勢いよく沖田の部屋の襖を開けた。ヘッドフォンで落語を聞いていた沖田は顔をしかめる。
「おい、誰の了承を得て勝手に人の部屋に入って来てんでィ」
「沖田さん!大ニュースです!」
なつみは聞く耳持たず、頬を紅潮させていた。言いたいことはたくさんあるがひとまず内容を聞こうと思い沖田は口をつぐむ。
「陽菜さんと土方さんって恋人同士だったんです!」
「…」
「あれ?反応が薄い…。びっくりしないんですか?心なしか視線がもの凄く冷たいんですけど…」
沖田は盛大にため息をついた。
「んなこったァ皆知ってまさァ」
「…嘘ッ!?」
衝撃を受けるなつみになんで今まで気付かなかったんだと聞きたい。気付くだろ、普通。
「さっき廊下に陽菜さんと土方さんがいて…雰囲気がすっごく良かったから恋人同士だと思ってそれで…」
むぅとなつみは唇を尖らす。気付いたのは自分だけだと思っていたらしい。だがなつみの表情はすぐに笑顔に変わった。
「陽菜さんと土方さんか…お似合いですね」
「…そうですかィ?」
「はい!それに私、陽菜さんも土方さんも大好きですから嬉しいです!」
にっこり笑うなつみを沖田はじっと見つめる。
「沖田さん?」
首を傾げ、あっと何かを思いついたような声をなつみはあげた。
「陽菜さんも土方さんも好きですけど、一番好きなのは沖田さんだから安心してください!」
安心って何をだ。にこにこ笑っているなつみを見て、呆れながらも知らず知らずのうちに口元を緩める。
「で、人の部屋に勝手に入って来てただですむと思っているんですかィ?」
ニヒルな微を浮かべた沖田を見て、今までの経験でなつみは嫌な予感を覚える。
「えっと、それじゃああたしはこれで!おやすみなさい!」
「逃がすかッ」
「きやぁあ!」
「あうぅ〜首が…」
昨日の夜沖田に技をかけられたため、首が痛い。あと貼ったシップが臭い。陽菜はくすくす笑う。
「なつみちゃんすっかり沖田さんと仲良しね」
見る人によってはそう見えるらしい。ぱあっと顔を輝かせ「はい!」となつみ元気に頷いた。
今日は陽菜と二人でお買い物。土方に頼み込んで休みをもらったのだ。
「陽菜さんは土方さんと恋人同士なんですよね?」
びくっと体を震わし陽菜は顔を赤くした。小さく頷くその仕種になつみはキュンとする。同時に好奇心が疼く。
「いつからなんですか?告白はどっちから?二人はどうやって出会ったんですか?」
「ええっと…」
矢次にされる質問に陽菜は戸惑う。
「土方さんのどこが好きなんですか?」
「…優しいところ、かな」
陽菜は照れたように笑う。
「土方さんは私に生きる勇気をくれた人なの。土方さんがいなかったら…私はここにはいないわ」
どこか遠くを見つめながら陽菜は言った。穏やかな笑顔には哀愁が漂う。
「ならあたし、土方さんにすっごく感謝です」
「…?どうして?」
首を傾げる陽菜の手をなつみは握った。
「あたし、陽菜さんに出会えてすっごく嬉しいですから」
なつみはにっこり笑う。陽菜は目を少し見開いてから微笑んだ。
「陽菜さん、あの店行きましょ!」
なつみに手をひかれ、陽菜は一歩を踏み出した。
居間で沖田と近藤はテレビを見ていると買い物から帰ってきたなつみと陽菜の声が聞こえてきた。
「お、帰って来たな」
しばらくして居間の襖が開き、元気になつみが入って来た。
「ただいま帰りました!」
「お帰り。…って、なつみちゃん!?なんて恰好をしてるのッ!!?」
なつみが着ているのは今流行りのミニスカート着物。なつみはその場でくるりと回る。
「えへへ、可愛いですか?」
「そんなハレンチな恰好をしてはいけません!」
悲痛に叫ぶ近藤を無視してなつみは沖田に着物を見せびらかす。
「沖田さん、どうですか?可愛いですか?ドキドキしますか?」
なつみはドキドキしながら沖田の反応を待つ。毎月買っている雑誌にいつもと違う恰好をして想い人の気をひこうと書かれていたのだ。色仕掛けが有効的とも書いてあった。
沖田は怠そうになつみを見、一言。
「アンタ、自分に色気があるとでも思ってるんですかィ?」
ビシッ…。音をたててなつみは固まった。そりゃ、まだ子供だし美人でもないしAカップだし色気がないのは重々承知している。でも、好きな人に言われるとこれほどまでショックとは思わなかった。
「ううぅ…」
「せめてDカップになってから出直してきなせェ」
「う〜、それってミニスカ関係ないじゃないですか〜」
「何言ってんでィ。胸が大きいのは男のロマンだろうが」
なつみはしょぼんと肩を落とし、自分の寂しい胸を触った。…ぺたんこだぁ。
「総悟!何言ってるんだ!俺はお妙さんがまな板でも愛しているぞ!」
「へーへー」
近藤が想い人について熱く語っていると土方が居間にやって来た。
「香坂、帰ったのか。陽菜はどうした?」
「うわ、土方さんあたしのミニスカ普通にスルーですか」
そんなに色気がないのか。いい加減涙が出て来る。
「陽菜さんならそこにいますよ。陽菜さん、ほらほら恥ずかしがらずに入って入って」
ほら、となつみは襖の影にずっといた陽菜の腕をひっぱった。
「あっ、や…」
現れた陽菜を見て男三人は唖然とした。顔を赤くして立っている陽菜はなつみと同じようにミニスカート着物をはいていた。
「ひひひひ、陽菜っ!なななななんて恰好をしているんだ!お父さんは、お父さんは!」
「おー、さすが陽菜…めっちゃ似合ってまさァ」
「…おい。まさかとは思うけどその恰好でここまで帰って来たのか?」
慌てふためく近藤と感心する沖田。そして、土方が低い声で問う。
「そうですよ。陽菜さん通り行く人の視線一人じめでした!」
なつみが笑いながら言う横で陽菜は赤い顔で俯いている。土方はいきなり陽菜の腕を掴みひっぱった。
「ひ、土方さん?」
「脱げ!今すぐ脱げ!これ以上他の野郎にその恰好を見せるな!」
戸惑う陽菜を問答無用で連れて行く土方を見送ってなつみはポカンとする。
「…なんですか、今の?」
「気にすんな。ただの独占欲でィ」
沖田がどうでもよさそうに言う。
「独占欲…」
(陽菜さんの可愛い姿を誰にも見せたくなかったってことかな?)
なつみは口元に手をあてた。
「陽菜さん愛されていますねぇ」
「…そうですねェ」
低い沖田の声になつみは首を傾げる。陽菜と土方の話題になると沖田は表情を暗くするような気がする。
どうしてだろうと思いながらなつみは腰を下ろし、ちゃぶ台の上に置いてあったきゅうすで自分用のお茶を入れる。
「あ、沖田さん。お土産にドラヤキ買ってきたんです」
「お、でかした。さっさと出せ」
「きゃ、沖田さんに誉められちゃった」
「陽菜、お父さんさんはだな、陽菜にいつまでも清く純粋で…」
横でうんたらかんたら言っている近藤を無視して沖田はドラヤキを食べる。
「え?近藤さんって陽菜さんのお父さんなんですか?」
「んなわけねェだろうが。近藤さんが勝手に言っているだけでィ」
「ですよねー。ゴリラからあんな美人さんは生まれませんよねー」
「…アンタって実はいい性格してやすよね」
「きゃ、今日は沖田さんに二回も誉められちゃった」
「誉めていやせん」
「沖田さん、大好きです!」
「へーへー」
なつみを適当に流しながら沖田は二個目のドラヤキに手を伸ばした。
それぞれの愛のカタチ
「陽菜、今日はミニスカじゃないんですかィ?」
「えっと…」
「着させねェよ」
「土方さん、アンタうざいでさァ」