「うわぁ、凄い…」
片付けを手伝うためになつみの部屋にやって来た陽菜は唖然とした。
部屋を覆いつくすように散らばっている本や雑誌。その中でなつみは一生懸命雑誌を読んでいた。陽菜に気付いた様子はない。また、この惨状を片付ける様子もない。
「なつみちゃ〜ん」
声をかけるとなつみはパッと顔をあげ破顔した。
「陽菜さん!あ、すいません散らかってて」
なつみは陽菜が座れる分の空間を雑誌をどけて作る。陽菜は本を踏まないように注意しながらそこへ行き腰をおろした。
「凄い量ねぇ…」
「えへへ。恋愛漫画やファッション雑誌を読んで日々研究しているんです。これ全部はあたしの強い味方です!これらを研究して絶対沖田さんにあたしのことを好きになってもらいます!」
グッと拳を握るなつみは闘志に燃えていた。陽菜はふふっと楽しそうに笑う。
「頑張ってね、なつみちゃん」
「はい!」
二人は目を見合わせてにっこり笑い合う。
「陽菜さんも見ますか?」
「ありがとう。私、こういうの全然見ないからなぁ」
「ダメですよ陽菜さん!最先端の流行はちゃんとチェックしなくちゃ!」
「そういうものなの?」
「はい!」
へぇ〜と感心したような声をあげながら陽菜は差し出されたファッション雑誌をパラパラとページをめくる。
「あ、これ可愛い」
「どれですか?あ、本当だぁ。陽菜さんに似合いそう!」
「そう、かな?」
「はい!陽菜さん、今度一緒に買い物行きましょうよ!女二人で楽しみましょう!」
なつみの誘いに陽菜は嬉しそうに頷いた。
「それにしても、こんだけの量をどうやって持って来たの?」
畳に散らばった雑誌類を見渡しながら陽菜は感心したように問う。なつみはああ、と頷きにっこり笑った。
「家に誰もいない時を見計らって持って来てくれたんです。山崎さんが」
ガラッ――
その時、襖が開いて山崎が入って来た。息が荒く、とても疲れた顔をしている。そんな山崎の手にはたくさんの紙袋があった。
「あ、山崎さん。お疲れさまでーす」
「本当に…」
山崎は紙袋をドサッと部屋に起き崩れるように倒れた。
「しんどい…。大量の紙袋持って四往復はしんどい…」
「あたしん家から屯所まで結構距離ありますからねー。車で行ったら目立ちますし。あたし、家出の身ですからそれは嫌ですし」
あははっと笑うなつみを山崎は憎らしそうに見上げる。
「急に荷物がなくなったって気付いたら家の方心配するんじゃ…」
「大丈夫ですって!」
心配気な陽菜をよそになつみは楽天的に笑った。
「あ、山崎さん。例の物、ちゃんと見付かりました?」
倒れていた山崎はガバッと体を上げて嬉しそうに頷いた。山崎は一つの紙袋からバトミントンのラケットを取り出す。
「この前副長にラケット折られてさぁ…。ありがとう、香坂さん!」
「いえいえ。荷物を運んでくれたお礼です」
嬉しそうにラケットにほお擦りする山崎をなつみはにこにこしながら見つめる。
「俺、香坂さんと沖田隊長のこと応援するよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
なつみはパアっと顔を輝かせた。グッと拳を握りしめる。
「あたし、絶対沖田さんと恋人同士になってみせますっ!」
あたらためて高らかに宣言するなつみに陽菜と山崎は拍手を送るのだった。
それは天然なのか計算なのか
「ッ…」
「どうした?」
「いや、なんか悪寒が…」
「悪寒?お前がか?ハッ、珍しいこともあるもんだなぁ」
「気分転換に土方さんの藁人形に釘でも打ってきやす」
「どういう気分転換だよ!!」