黒く濁った赤黄緑青紫のマーブルの物体が朝食の机にドーンと置いてあるその光景を見て、隊士達は声を失うしかなかった。なつみと陽菜が笑顔を浮かべて立っている。


「今日の朝食はあたしと陽菜さんの二人で作ったんですっ!たっくさん作りましたから皆さん遠慮せずに食べて下さいねっ」


決して手を組んではいけない二人が手を組んだ。
これは食べ物なのか?っと誰もが思った。食べ物である以前に、この惑星に存在していていい物であるかさえ危うい。


「本当、なつみちゃん料理上手ね。教え方も上手。私、こんなに上手く作れたの初めてよ」
「いやぁ、そんなそんな。陽菜さんのセンスがいいんですよ」


女中二人の会話が隊士達の耳に否応なく入ってくる。


「あれ?皆さんどうしたんですか?じゃんじゃん食べて下さいよ」
「そうですよ。おかわりもたくさんありますから」


無邪気な笑顔を裏切ることが出来ず、隊士達は恐る恐るソレを口に運ぶ。


その日の朝食の話しを口に出す者は誰ひとりいなかった。






スキップで街を歩くなつみに沖田は呆れ顔を浮かべる。


「ご機嫌ですねェ」


朝食のダメージがまだ沖田は残っていた。反対になつみは元気いっぱいだ。


「はい!だって沖田さんとデートですもんっ!」


幸せ一杯です〜となつみはクルクル回る。周りの目が痛かったが、こんなふうに無邪気に喜ばれると悪い気はしなかった。


「沖田さん、今日はどこに行くんですか?」
「…俺の姉上のところでさァ」
「え…?」


なつみは驚き、それから顔をかあぁと赤くした。頬に手をあて体をくねくねさせる。


「そ、そんな沖田さん。家族にご挨拶だなんて気が早いですよ〜」
「は?」
「まだあたし達付き合ってもいないのにいきなり結婚だなんて…」
「おい」
「でもあたしの心は決まっています!沖田さん!子供はたくさん作りましょうねっ!」


沖田はどこからともなくバズーカを取り出しなつみに向かって放つ。


ちゅっどぉぉおんっっ!!


なつみと不運な通行人がぶっ飛んだが沖田は素知らぬ顔をしていた。







「もう、沖田さんったら。照れなくても、嘘ですごめんなさい」


無言でバズーカの口を向けられなつみは素直に謝った。チラッと荷物の中身を見て眉を寄せる。


「お弁当大丈夫かなぁ?」
「…は?」


沖田はなつみの独り言を思わず聞き返す。なつみは笑顔でカバンの中のソレを沖田に見せた。


「お弁当、作ったんです!お昼に食べましょうね〜。お弁当を作るついでに陽菜さんと朝食も作ったんです」


沖田は顔をピクピクと引きつらす。つまりアレか。今朝の出来事は俺がコイツを誘ったせいか。さらになつみは無邪気にとんでもないことを続けた。


「沖田さんのお姉さんにも食べてもらおう〜」
「っ!」


沖田は珍しく慌てた様子を見せ、なつみの足を自分の足に引っかけた!


「わっ!」


前のめりになったなつみの手からお弁当の入ったカバンが放れ、そのまま近くの川に落ちる。


「あ〜〜!!!!」


なつみが悲鳴をあげる横で沖田がホッと安堵の息をついた。


「残念でしたねェ」
「う〜」


なつみはガクリとうなだれた。






『沖田ミツバ』とかかれた墓石の前で沖田はしゃがむ。なつみの様子を見るが、驚いた様子はなかった。なんだかんだでカンがいい奴だから沖田が花を買った時点で気付いたのだろう。


「久しぶりです、姉上」


沖田は線香に火をつけ墓に置いた。なつみは頭を下げる。


「初めまして、香坂なつみです。沖田さんとは将来を約束した、」
「これは下僕でさァ」
「沖田さぁん…」


沖田の容赦ない言葉になつみは情けない声をあげる。


「俺ァ、ちょっと水を汲んできまさァ」
「あ、はい。いってらっしゃい」


沖田が水を汲み、墓の前に戻ってくると真剣に手を合わすなつみの姿があった。


「……」


沖田は静かにその姿を見つめる。ふと顔をあげたなつみは沖田に気付き、満面の微を浮かべた。


「…姉上と何の話しをしていたんですかィ?」
「沖田さんの最近の様子をお姉さんに話してたんですよ〜」


なつみはニコニコ笑い沖田から桶を受け取った。


「さ、沖田さん。綺麗にしてあげましょう」
「…あぁ」


水をかけ、回りの草を抜くと墓はだいぶ綺麗になった。


「沖田さんのお姉さんってことはすっごく美人さん?」
「あたり前でさァ」


即答する沖田になつみはクスクス笑う。


「沖田さん、お姉さんのこと大好きなんですね」


沖田は目を見開いた。なつみは「大好きだったんですね」ではなく「大好きなんですね」と言った。それは姉の存在を過去にしたくない沖田にとって大きな違いだった。


「…姉上が死んだのは俺のせいでさァ」


沖田は囁くような声で言う。


「体が弱いのに俺の母親代わりになってくれて、無理をして…そのせいで…」


幸せになって欲しかった。でも、この人は幸せになれなかった。


「あたし、お姉さんにすっごく感謝です」


沖田はなつみの横顔を見る。なつみはミツバの墓をジッと見つめていた。


「沖田さんがこんな優しくて温かい人になったのはお姉さんが育ててくれたお陰なんですよね。だから、感謝です」


なつみは沖田の顔を見る。


「沖田さん。そんなふうに自分を責めたらお姉さんに失礼ですよ?」
「え…?」
「だってお姉さんは沖田さんが大好きなんですから」
「…なんでアンタにそんなことが分かるんですかィ?」
「お姉さんが大好きな沖田さんを見てたら分かりますよ。お姉さんは嫌々沖田さんを育てた訳じゃない。沖田さんが大好きだから育てたんです」
「……」
「お姉さんは幸せですよ。大好きな沖田さんが自分のことを大好きでいてくれるんですから。あたしもお姉さんのこと大好きです。お姉さんのお陰であたしの大好きな沖田さんがいるんですから」


そう言い微笑むなつみはいつもと違い大人びていて、沖田は見入った。


「ゴミ捨てて来ますね」と言ってなつみは消却炉へ向かう。その途中勢いよくこけ、その姿を見た沖田は笑う。


「…姉上。アイツ、面白いでしょ?バカみたいに俺のこと好きだって言って…俺の心の中にズカズカ遠慮なしに入って来る。正直、あんなバカには救われまさァ」


沖田はミツバを過去の人にしたりなんかしない。ずっと大切な姉だ。なつみもまた、ミツバを過去の人なんかにしなかった。沖田はそれがどうしようもなく嬉しかった。








「そろそろ帰りますかァ」
「はい」


沖田はなつみの前で背中を向けてしゃがむ。


「沖田さん?」
「乗りなせェ。さっきこけた時にくじいたんだろ?」


なつみは目を見開く。バレているとは思わなかったようだ。恐る恐るなつみは沖田の背中に乗る。


「よ、っと」
「お、重くないですか?」
「めちゃくちゃ重ェ」
「っ、やっぱり自分で歩きます!降ろして下さいっ!」
「…嫌がられると降ろしたくなくなりますねェ」
「ちょ、沖田さん!?降ろしてってば!」
「嫌でさァ」
「いや、恥ずかしいですから〜!」


沖田の笑い声が夕暮れに染まる街に響いた。


姉上。俺ァ、誰かを特別に想うのがずっと嫌だっんでさァ。土方さんに盗られてしまうかもって想いもあったんですが…姉上から幸せを奪っておいで自分だけ幸せになることが嫌だったんでさァ。
でも、もう止めにしまさァ。俺ァ幸せになりたいです。俺を大切に育ててくれた姉上のために。







願いはいつも簡単なこと



「総悟ォォオ!お前また街中でバズーカぶっ放しやがったなっ!?被害届けがバンバン着てやがるんだよっ!お前いい加減にしろよっ!?」
「うるせェ土方コノヤロー」
「っ!?ちょ、待て…」


ちゅっどぉぉおんっっ!!


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