不安げにこっちを見てくるたくさんの目。ついにか、と結菜はため息をこっそりつく。その横では梨乃が盛大についた。
昼休み、教室の自分の席に座る結菜を囲むのはクラスと他のクラスの女子生徒たち数名。
「あのさ、宮瀬さんに聞きたいことがあるんだけど」
同じクラスの髪を明るく染め気の強そうな一人が代表として口を開く?
「…えっと、何かな?」
だいたいの予想はついているが結菜はすっとぼけて首を傾げる。揺れる自然のままの明るい髪。ぐっ、と代表の女子生徒は怯んだ。
「…結菜さんが幸村くんのお見舞いに行ってるって話しを聞いたんだけど」
だが、あくまで強気で上からものを言ってくるその態度。だが、内容は卑屈だった。
やっぱりそのことか、と予測があっていたが結菜は全然嬉しくなかった。
「結菜さん、別に幸村くんと仲良くなかったよね?なのになんで?」
一方的に責めるような言い方に困りながら結菜はこんな時ように考えていた嘘を吐く。
「たまたま病院で出会っただけだよ」
「たまたま?」
「うん。幸村くんと同じ病院に家族が入院していて。通っているうちに何度も幸村くんと遭遇してそれで話すようになったの」
だからたまたま。結菜はにっこり笑顔を浮かべる。
「…宮瀬さんは幸村くんと付き合ってるの?」
「ええ?まさか」
おどけたように言うと彼女たちはそれを信じたようで安堵したように去って行った。
完全にいなくなってから結菜は息をつく。
「恋する乙女だなぁ…」
「そういうわけだけじゃないと思うけど」
「え?」
梨乃はスナック菓子をポリポリと食べながらどうでもよさそうに言う。
「あの人たちにとって幸村精市はアイドルなのよ。というかテニス部全体がね」
「アイドル…?」
「遠くて憧れの存在。別に付き合いたいとか思ってないよ、きっと。幸村くんとか特に。あんなレベルが高いの」
「神の子だし?」
「そうそう、神の子だし」
話しの腰をおりたくなったので、冗談を含めて言うと梨乃はノってくれた。二人でくすくす笑うが、正直結菜は幸村のこの異名が好きではない。
「あの人たちはアイドルについて騒ぐのがただたんに好きなだけ。で、好きなアイドルに恋人ができるのって嫌だし夢が潰れるような感じになるわけ」
「あ〜、うん。それは分かるかも」
結菜にも好きな俳優がいる。結婚してほしくないとまではいかないが結婚したらショックは受けるし、奥さんがいる相手に騒いでいいのかという気後れもしてしまう。
「でしょ?それにもうすぐバレンタインだしね」
「あ、そっか」
「騒ぐにはもってこいのイベントでしょ」
「確かに。…でもさ、大人数が病院につめかけるわけには行かないしどうやって渡すんだろうね」
その時だった。
「それにはいいアイディアがありまーす!!」
「きゃっ!?」
「………」
いきなり割って入った声に結菜は小さな悲鳴をあげ梨乃は眉を寄せた。
「ふふ〜、あのねあのねー!いいこと考えちゃったんだよ!これで学校新聞の注目度アップ間違いなし!すなわち部費アップ間違いなーし!」
「…何なのよ新聞部」
「いやー、ちょっと結菜に記事の手伝いをしてもらおうと思ってさ」
「手伝い…?」
結菜は首を傾げ、新聞部員はにっこりと無邪気に笑った。
結菜から話しを聞いた幸村は首を傾げる。
「バレンタインデーチョコを一番多くもらったのは誰でしょうランキング…?」
「うん…」
昼休み、新聞部員の友人が持って来た話しは幸村がバレンタインデーにチョコを何個もらうか数えさせてほしいから許可をとってきてくれというものだった。
「でも、幸村くんに直接渡すのは無理だからこっちで集めて幸村くんに数えてから幸村くんに渡すって感じになるらしい」
「………」
「あ、幸村くんはホワイトデーの心配しなくていいんだって。幸村くんにチョコをあげた人には幸村くんの写真を配るらしいから」
「…その写真はどこから出てくるの?」
「写真部から。…なんか写真部の子がすごく喜んでいたけどなんで?」
「う〜ん、いろいろとあって」
「?」
気にはなったが幸村がそれ以上言う気がないのが分かったので結菜はそれ以上聞かなかった。
「でね、どうかな?」
「……宮瀬さんが俺にチョコをくれるならいいよ」
「え?」
思わず聞き返す。幸村にチョコを渡す…?
今まで男子にチョコをあげたことがない結菜はそんなこと考えたこともなかった。
「いいよね?」
「う、うん…」
多少戸惑いながら頷くと幸村は嬉しそうに笑った。
アルストロメリアの訪れ
「幸村くん、毎年どれぐらいもらうの?」
「う〜ん…去年は80ぐらいだったかな?」
「………」