いつものように幸村の病室に向かっていると、楽しそうな子供の声が複数聞こえた。見ると幸村の病室のドアが開いている。声はそこから聞こえてきていた。ひょこりと顔を出すと五人の子供たちが幸村の病室にいた。
結菜に気が付いた幸村はゆっこりと笑う。


「いらっしゃい、宮瀬さん」


すると、子供たちが一斉に結菜を見た。たくさんの大きな瞳に見られ戸惑いその場を動けなくなる結菜に向かって、一人の女の子が近付き見上げてくる。目線を合わすためにしゃがむと、女の子はジッと結菜の顔を見てきた。正しくは、髪を。女の子はにぱっと子供しか浮かべることのできない、無邪気な笑顔を浮かべる。


「お姉ちゃん、髪キレイ!」


その声が合図かのように他の子供たちも結菜の回りにやって来ては小鳥が鳴くようにしゃべる。


「髪キラキラしてる!キレイ!」
「いいなぁ、うらやましい!」
「目もキレイ!お母さんのネックレスの石に似てる!」
「お姉ちゃんお人形みたいだね!」
「キレイ!」


キレイキレイと繰り返し何度も言う子供たちに結菜の頬が自然と緩む。


「…ありがとう」


しばらく相手をしてやっていると、診察があるため子供たちを迎えに来た看護師と一緒に子供たちは去って行った。
その姿が見えなくなってから結菜はくすくすっと笑う。


「みんないい子だね」
「だろう?」
「うん」


最初は戸惑ったものの、無邪気な子らと話すのは癒された。お姉ちゃん、お兄ちゃんと結菜と幸村にじゃれついてきた子供たちを思い出すとすぐに頬が緩む。


「妹か弟欲しかったな〜」
「宮瀬さんは上にいるんだっけ?」
「うん。兄と姉がいるよ」


二、三回会ったことがある幸村の妹を思い出しほう、と息を吐く。


「幸村くんの妹さんも可愛いかったなー。いいな、妹。私も欲しい」
「フフ。ならオレは弟が欲しかったな。テニスを一緒にしたかったよ」
「妹さんはしてないの?」
「うん。妹はスポーツにはあまり興味がないみたいだよ。運動神経はある方だと思うんだけどね」
「へ〜」


いつものようにベッドの横にあるイスに座ろうとして、あるモノが視界に入り結菜はギョッとした。それに気付いた幸村は苦笑する。


「赤也がくれたんだ」


それは小さな植木鉢だった。見舞いの品として根のついた植物を持って来ることは忌み嫌われている。根をはる。つまり、入院が長くなるという意味合いがあるのだ。
だが、きっと赤也はそんなことは知らずに持って来たのだろう。ガーデニングが好きな幸村が喜ぶ、それだけを考えて。結菜は前に会った明るく笑う少年を思い出す。幸村もそんな純粋な気持ちが嬉しかったから植木鉢をそのまま置いているのだろう。


「…いい子だね」
「フフ、そうだね」
「何の花?」
「それがさ、知らないらしいんだ」
「え?」
「店にあった綺麗な花の写真を見て種を買ったものの、その花の名前は忘れたらしい」


しょうがない奴だよね。そう言い笑う幸村は困った表情を浮かべながらも嬉しそうだった。


「だから、そのまま花が咲くまで楽しみにとっておくことにしたんだ」
「なるほど。それはいいね」
「だろ?」


くすくすと二人は笑う。
それから取り留めのない話しをし、話題は冬休みへと変わった。


「え?宮瀬さんフランスに行くの?」


結菜は長期休みの時はフランスに戻る。今年の冬休みも例外ではない。幸村はつまらなそうに小さく唇を尖らせる。


「じゃあ、その間は来てくれないんだね」


ドキッと胸が小さく鳴った。幸村がこんなふうに拗ねるほど自分の来訪を楽しみにしてくれている。…顔が熱くなる。
お土産買ってくるから。そう言っても幸村はふてくされたままだった。
困り果てた結菜を見て満足したのか幸村はにっこりと笑う。


「宮瀬さん、オレと一つ約束して」
「約束?」
「そう。日本に戻って来たら誰よりも先に会いに来て」


瞬きを数回する間にゆっくりと思考をめぐらす。…そんなことを約束してどうするのだろう?


「約束」


そう言って幸村は左手の小指を出す。反射的に結菜は右手の小指を出した。幸村は小指を絡めとり、満足げに笑う。


(勝手に決められてしまった…)


別になんの不都合もない約束だが流された感が否めない。


(……まあ、いっか)


結菜は小さく零れるような笑顔を浮かべた。







ペチュニアがくれた時間



「オレさ、入院してから夕暮れが好きになったんだ」
「夕暮れ?」
「うん。すごく綺麗だから、毎日早くくればいいって思っている」




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