どうして私がこの世界に来てしまったんだろう。男同士の恋愛や結婚が普通にあるこの世界に、どうして男嫌いの私が来てしまったんだろう。
…なんかもう神様の嫌がらせにしか思えない。








私は今、城内にある書庫室に来ている。フォンヴォルテール卿…もとい、閣下に本をここに戻すように言われたのだ。入った時は膨大な数の本に圧倒された。
本棚のてっぺんは見えないし、戻すって言ってもいったいどこに…。


閣下に渡された紙を見ると、そこには数字が書かれていた。異世界の文字はいっさい読み書きできないけど最近少しずつ勉強して簡単な文字ぐらいは読めるようになった。数字も覚えた。
だからってさ、この広い書庫室からこの番号を捜せってひどくない?


「……やるしかないか」


結論から言うと途方もない作業だった。閣下に言われた本だけでも十分量があるのに、他の本も整理しておけと言われてたからもう本当に大変だ。悪魔か、あの男は。…魔族だからそれほど間違いじゃないか。


高い所は梯子を使わなくちゃならないし、埃っぽいし、目が疲れるし、お腹空いたし。
今度閣下の紅茶に糸屑をいれてやる。


「………」


一人で黙々と作業をしていると嫌なことを思い出した。陛下とその他の男達のこと。


「…はぁ〜」


大きく息を吸って大きく吐き出す。深呼吸に近いため息。
奴らのせいで悪夢をよく見るようになりただでさえ寝付けないのに更に寝付けなくなった。
最近では頭がズキズキしだした。まぁ、受験真っ最中の時に比べたらまだマシだから大丈夫だろうけど。


「よ、っと」


同じ背表紙の本を五冊持って梯子を上る。うっ、ちょっと無理したかも。
それでもなんとか上り本を棚に戻す。ほっとして肩の力を抜いた時だった。


「っ……」


目眩がした。慌てて梯子を掴む。そのせいで梯子が揺れ梯子か揺れた。


…ヤバイ


そう思った瞬間私の体は浮いた。


どんっ!


ドサドサドサッ…


「つ〜〜!!」


痛い、痛過ぎる!お尻を強打したうえ、上から本が落ちてくるなんて…。なんてついてない。あまり高くない所から落ちたのが不幸中の幸い。それでも痛いものは痛い。


「う、うぅ…」


お尻をさすりながら立ち上がり、壁に向かって歩く。とりあえず壁へ…。
壁に手をつき、ほっと息をつくと、ガタンという音が聞こえた。


え…?


なんと、手をついた場所の壁が回転したのだ。壁に体重を預けていた私はそのまま…。


「きぁぁあ!!ふざけんじゃないわよぉぉお!!」









あ、頭痛い…。
クラクラする…。なんでこう、ついてないのよ…。今までこんなことなかったのに。この世界に来てからこんなのばっか。私が何をした。


「ここ、どこよ…」


たどり着いたそこは書庫とはまた別の場所だった。雰囲気はなんとなく似ているが、よく剣や楯、よく分からないお面などもある。
城内でさえちゃんと把握してないのにこんな隠し部屋みたいな所に入ってしまうなんて…。どうやって帰ればいいのよ。


落ちて来た壁を触るけど、開く様子はない。出口を捜すにも、体のいたる所が痛くて動かせない。


「足…捻ったかも……」


なんだか自分が情けなくて泣けてきた。ここから出られるか分からないし…。あぁ、もう…。
痛いし心細いしお腹空いたし。本当に嫌。


「落ち着け、ルナ。泣くな。泣いたってどうしようもないから」


自分で自分を励ますと心細さが増した。もう少し休んだら出口を捜そう。案外アッサリ見付かるかもしれないし。大丈夫。大丈夫だから。頑張れ、ルナ。


『泣かないで』


ずっと昔に聞いた優しい声が頭に響く。


『泣かないで、るーちゃん。大丈夫だから。ゆーちゃんがるーちゃんを守ってあげるから!だから、泣かないで』


「ゆーちゃん…」


うん、大丈夫。大丈夫だよ。
涙をぬぐい、体の痛みに耐えながら立ち上が時、不思議な音が聞こえた。


――ウゥゥウウ…


「…え?」


今の声、何?風の音?


それにしては低いような…


――ウウウゥウ…


…違う。風の音じゃない。
しかもこっちに近付いて来てる。


――ゥゥウヴォオ…


「…何?何なの?」


…ここって、魔王の城、だよね?危険な生き物を飼ってたりするの?その生き物の声?
ど、どうしよう…


…喰われる?


――ゥゥゥウウウ…


声はすぐそこまで近付いて来ている。恐怖で体が動かない。


誰か…
助けて……!







迷い惑い、誘われる



誰かが、私の名前を呼ぶ。





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