私は三歳の時には男が嫌いだった。幼稚園、小学校、中学校と、私は男にとって嫌な女子だったと思う。それで厭味を言われることや嫌がらせやを受けることが多かった。そのせいで更に私は男嫌いになった。
目を開けるとエメラルド色の瞳が視界いっぱいに入った。
「オイ、いい加減起きろ。この僕がわざわざお前を起こしに来てやったんだ。感謝し…」
状況を確認した瞬間私は起き上がってベットの端を掴んだ。
「死にさらせぇぇぇえ!!」
「う、わぁぁぁあ!!」
異世界でむかえた最初の朝はまったくもって最悪だった。
たく、起きてすぐ視界に入ったのが男の顔だなんて…最っ低。キャンキャン男は喚いていたけど、そんなの知らない。年頃の女の部屋に勝手に入って来るのが悪い。
「さて…どうしよう?」
この城、と言うかこの世界で私がすることはない。はっきり言って暇。
なんでもこの世界と私がいた世界では時間の進み方が違うらしい。ここでの数日はあっちの一秒にもならないとか。
で、私が自殺志願者だと勘違いした少年は魔王として外せない重大な仕事があるらしく、それまでは戻れないらしい。
あんなどこにでもいそうな少年が魔王とは世の中不思議だ。いや、異世界がある時点でいろいろおかしいけど。世の中私が知らないだけでまだまだ不可思議なことはあるのかもしれない。…できればこれ以上遭遇したくないかな。
まあ、魔王と言っても物語に出て来るような悪の親玉とかそういう訳じゃないらしく、ただ魔術が使える王様ってことらしい。
仕事というのは国のための仕事。なら、戻れないと言われても仕方がないかなっと思ってみたり。…ふう。我ながらお人よしだなぁ。
とりあえず、私にはやることがなくて暇なのだ。どうやって時間をつぶそう…。
ふと廊下を忙しそうに歩き回るメイドさん達が視界に入った。本当に忙しそう…。あ、メイドさん同士ぶつかって洗濯物落としてる。
体を動かすっていいなぁ。メイドって楽しそうだよね。やってみたいなぁ…。
「…頼んだらやらせてもらえるかも」
よし、ダメもとで頼んでみるか。でも、誰に頼めばいいんだろう?
「銀髪?それとも灰色の髪?」
う〜ん、とりあえず魔王ではないことは確かだよね。アレ、へなちょこっぽいし。とりあえず…どっちかの所に行ってみますか。
扉を叩くと「どうぞ」と言う声が聞こえた。
「失礼します。お茶をお持ちいたしました」
「ありがとう…ってルナ!?」
椅子に座ったままのけ反る陛下。うわ、なんてナイスな反応。
「ど、どうしてここに?と言うかその恰好は!?」
私は今メイド服を着ている。コスプレしているみたいで恥ずかしいんだけど…でも可愛い。こんな服着たことなかったから正直楽しかったり。でもそんな反応されるとちょっと不安になった。
「変、ですか?」
「いやいやそんな!似合ってるよ!」
「…ありがとうございます」
…お世辞でもそう言ってもらえると嬉しい。
「フォンヴォルテール卿に頼んでメイドとして雇ってもらったんです」
「グウェンダルに?」
意外にあっさりと許可をもらえた。自分で言うのもアレだけどこんな得体の知れない奴を簡単に働かせていいのか。それほどまでに人手不足なの?
「はい。やることがなくて暇だったので」
にっこり笑って言うと陛下は顔をひきつらせた。
「いや、その…。すいません」
「いえいえ、それが陛下のお仕事ですから。しっかり働いて下さいね」
「…はい」
よしよし。これでしっかり働くだろう。まぁ、せっかくの機会だしこの世界での生活を満喫してもいいかなって思っているのも確か。
私は陛下の横に行って紅茶をついだ。
「その、ルナ。ごめんな」
陛下が申し訳なさそうに言う。どうでもいいけど、どうしてこの人は私を呼び捨てにするのよ。馴れ馴れしい。
「いえ、元々は私の勘違いから始まったことです。陛下が気負いすることではありません」
笑顔を張り付けながら私が言うと陛下は何やら複雑そうな顔をした。
「あの、さ。別に敬語使わなくていいよ。それに俺のことは有利で…」
「陛下、私は最初にあなたがたと馴れ合うつもりはないと言いましたよね?」
「………」
陛下は傷付いたような顔をした。私はなぜだか分からないけど、この人と必要意外に関わりたくなかった。
「失礼します」
頭を下げ、部屋を出ようとすると呼び止められた。
「ルナっ」
私は足を止めたけど、振り返ることはしない。
「あのさ…俺、どこかでルナと会ったことない?」
思わず体が震えた。…陛下を初めて見た時の感覚を思い出す。心のどこかでそう想っている私がいたから。でも…。
「気のせいです」
そう言って私は今度こそ部屋を出ていった。
異世界での生活スタート
一日でも早く元の世界に戻れるように、陛下には頑張ってもらわないとね。